死体を買う男 


 2014.8.30      乱歩好きにはたまらない 【死体を買う男】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

小説「白骨記」をめぐる物語。メインは「白骨記」の内容なのだが、どんでん返しは「白骨記」が描かれた謎にある。いかにもミステリー好きが喜びそうな展開だ。江戸川乱歩の文体をまねているのだろうが、雰囲気がすばらしい。女装姿の学生が自殺した事件を乱歩と萩原朔太郎が解き明かすのだが、時代的な制約により、謎解きが困難になるのがもどかしい。

白骨死体から身元を復元するなんてことをすんなりと物語に取り入れられず四苦八苦しているのを感じられる。それでも、乱歩の独特な雰囲気と、「白骨記」が描かれた謎は人を惹きつける魅力がある。「白骨記」を読んだ者の目線で描かれた作品という、ちょっと変わった体裁だけに、この謎が活きてくるのだろう。

■ストーリー

乱歩の未発表作品が発見された!?『白骨記』というタイトルで雑誌に掲載されるや大反響を呼ぶ―南紀・白浜で女装の学生が首吊り自殺を遂げる。男は、毎夜月を見て泣いていたという。乱歩と詩人萩原朔太郎が事件の謎に挑む本格推理。実は、この作品には二重三重のカラクリが隠されていた。

■感想
女装した学生の自殺の真相を解き明かすのが「白骨記」の内容だが、中身は複雑だ。学生は双子であり、死体が上がっていない。となると、様々な想像をしてしまう。なぜ女装なのか?双子はどんな関係が?それらを乱歩たちが様々な仮説を立てながら解き明かす物語だ。ただ、作中では乱歩とは明言されていない。

最初は、江戸川乱歩の未発表の作品では?という流れがあったのだが、すぐにしぼんでしまう。その代り、「白骨記」が描かれた理由を探るという、新たな目的が浮かび上がり、さらには、「白骨記」をどうしても自分の作品として発表したいという強い思いの謎もでてくる。

「白骨記」は、昭和初期の雰囲気がすばらしい。乱歩ファンにはたまらないのかもしれない。特に乱歩ファンではない自分でも、昭和独特の描写が心に残る。登場してくる地名に対してイチイチ現在では何区にあたる、なんて注釈がつくのも雰囲気がある。

高等遊民のような生活をする乱歩とコンビを組む萩原朔太郎も良い味をだしている。この二人について、特別な知識はなくとも、純粋な探偵小説として楽しむことができるのはすばらしい。ファンならば、マニアックなネタに気づくのかもしれない。

作中で「白骨記」に対する感想が語られている。そして、その流れから、「白骨記」に異様なまでにこだわる男の本心が明かされる。「白骨記」の謎が、そのまま「白骨記」を読んでいる者たちの関係へと繋がるのは、あまりにできすぎているような気もするが、違和感なく受け入れられる。

タイトルの「死体を買う男」の意味がラストでやっと判明する。「白骨記」とはまったく関係のないタイトルだが、「白骨記」をめぐる争いを読むと納得できる。

乱歩ファンならば、読むべき作品だ。



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