2014.4.9 若き総会屋が事件に巻き込まれる 【死角形の遺産】 HOME
評価:3
■ヒトコト感想
若きインテリ総会屋が事件に巻き込まれる。キャラクター作りがさすがで、登場してくるどのキャラクターも魅力にあふれている。井田は受け取った荷物から事件に巻き込まれるのだが、プロの殺し屋に狙われつつも、機転を利かせて逃げ切るあたり、ハラハラドキドキしてくる。
井田が総会屋としてヤクザとつながっていながら、その力を使うことなく自力で調査するあたりもすばらしい。そして、なんといっても冴えないデパート店員である原の存在だ。血なまぐさい争いとは無縁の原の存在が井田の足かせとなり、そして助けとなる。正体不明の人物が多数登場する中で、最初から原の存在には違和感をもったが…。キャラクターの魅力が奇妙な事件を引っ張っている。
■ストーリー
同姓同名であったために、誤配された一通の封筒。若きインテリ総会屋井田有生は、封筒を受け取ってから、奇妙な事件に巻き込まれてしまう。配達人は殺され、本来の受取り人は自殺をしてしまった。真相究明のため、井田は友人とともに封筒を開くと、中から凶弾に倒れた世界的に有名なミュージシャンの歌が録音されたテープが出てきた。そして、綾乃と名乗る謎の女が現われて…。
■感想
総会屋が主人公ということで、最初は井田の日々の業務と、総会屋としての立場が描かれている。ヤクザと付き合いもあり、総会屋として頭角を現す。この総会屋という部分が物語に大きな影響をおよぼすかというと、そうでもない。
逆に総会屋としての力を使わないことで、自分が巻き込まれた事件に対する井田のスタンスというのが明確になる。ヤクザのつてを使えば、一発で何かしらの情報を手に入れることができるが、あえて素人の原と共に調査をする。この一本筋の通った考え方がキャラの魅力となるのだろう。
同姓同名であったために、間違った荷物を受け取ったことから事件は始まる。自分が狙われたことについて、警察にも届けず独力で調査しようとするのは、井田のポリシーなのだろう。プロの殺し屋に狙われようとも、その信念はかわらない。
事件は井田が受け取ったテープから始まるのだが、このテープの謎が不可解だ。巨大宗教団体の存在や、暗躍する謎の女など、ミステリーとして興味を引き付ける材料はそろっている。殺し屋に追い詰められた井田たちが逃げ出す手段として、原の趣味を活用するのもすばらしく特徴的だ。
謎の多い原によって物語はより奇妙なものへと変化していく。冴えないデパート店員のはずが、なぜかどこからか情報を仕入れてきて井田を助ける。かと思えば、敵にあっさりとつかまったりと、正体が見えない。読者は原の存在が気になりつつも、井田たちの謎解きを楽しむしかない。
ラストでは、テープの謎が解き明かされ、めでたしめでたしとなるのだが…。井田と原のキャラクターはかなり秀逸だ。他のヤクザたちも個性豊かで魅力にあふれている。ミステリーの部分より、キャラの魅力に引き付けられたような感じだ。
インテリ総会屋のイメージは、最後にはなくなっている。
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