セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 


 2013.12.18    クリスマス時期にぴったり 【セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

誘拐事件が発生し、身代金としてロマノフ王朝から贈られた”ダイヤモンドの靴”をある場所に埋めろという要求がきた。ところが埋めたはずの靴がない。犯人も手に入れていない。この奇妙な状況を御手洗が推理する。身代金代わりである靴の受け渡しが特殊だ。込み入った条件を指定する。何時何分のある条件のみ。これが物語の鍵となっていることは間違いない。

強欲な両親の元ですくすくと育つ小学生の美紀。本来なら美紀が靴を相続するはずだったのが…。何十億もする靴を持つことにどんな意味があるのか。御手洗が純真無垢な子供の将来を考え、ある行動にでる。トリックはかなり特殊だが、悲惨な事件が起きるわけではないので、終始なごやかな雰囲気が感じられる作品だ。

■ストーリー

「占星術殺人事件」の直後、御手洗と石岡のもとを高沢秀子という老婦人が訪れる。最初はひやかしの客かと思われたが、秀子の知人・折野郁恵の話を聞いた御手洗は「これは大事件ですよ」と断言する。教会への礼拝中、雨が降り出すや郁恵は顔面蒼白となり、その場に倒れ伏したというのだ。その奇妙な行動の意味とは?ロマノフ王朝から明治政府に贈られた“ダイヤモンドの靴”を巡り起きた事件を御手洗の推理が解き明かす。

■感想
本作ほど御手洗の皮肉が連発する作品はないだろう。セントニコラスの靴を盗まれた強欲夫婦。御手洗が夫婦に対して連発する皮肉は気持ちがすっきりする。むちゃくちゃな夫婦であることは間違いない。自分本位で金のことばかり考える夫婦。

靴を盗まれたことは同情に値するが、その後の行動がステレオタイプな嫌な奴というのが秀逸だ。夫婦がむちゃくちゃであれば、その娘である美紀への同情心が強くなる。美紀が純真無垢な存在であればあるほど、御手洗でなくとも彼女を救いたいと思う気持ちは強くなる。

靴をカバンに入れて埋めたはずが、掘り返してみるとカバンの中に靴はない。犯人が早い段階で判明するが、犯人も靴を手に入れていないと言う。いったい靴はどこに消えたのか。御手洗は靴のありかを推理するが、決して言おうとしない。このあたり、御手洗独自の考え方で他の人々を煙に巻く。

世間の流れとはまったく違った考え方ができる御手洗だからこそ、すべてにおいて自分の信念を貫き通すことができるのだろう。御手洗だけが靴のありかを知り、他の者たちは知らない。御手洗の想像どおり、強欲夫婦たちが右往左往する姿は、読んでいて楽しくなる。

偶然にもクリスマス時期の話である本作。ラストではサンタが美紀にクリスマスプレゼントを贈る。本作を読んだ時期がクリスマス直前ということで、どんぴしゃのタイミングで読んだことになる。

今まであまり作品内の季節感を気にしたことはないが、物語とリアルの季節感が合うと、それだけで面白さが何割か増しになるような気がした。純粋にサンタクロースの存在を信じる美紀に、御手洗サンタがすばらしいプレゼントを贈る。ハッピーエンドで終わることが何より気持ちがいい。

クリスマス時期に読むべき作品だ。



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