さらわれたい女 


 2014.7.14     狂言誘拐が殺人事件へ 【さらわれたい女】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

狂言誘拐でまんまと金をせしめた男が、その後、衝撃的な出来事に遭遇する。前半は狂言誘拐を依頼された便利屋が実行し、その上で小金を手に入れるくだりが描かれている。90年代前半の作品のため、かなり時代を感じさせる描写が多々ある。NTTの伝言ダイヤルやダイヤルQ2などを利用し誘拐事件を起こすというのは、当時は画期的だったのだろう。

今読むと、なんだか少しチグハグした感じだ。狂言誘拐の部分はさておき、その先が衝撃的だ。誘拐は狂言のはずが、人質は死んでいた。そこから男は右往左往し、ミステリアスな展開となる。狂言誘拐がいつのまにか殺人事件になる、それに巻き込まれる男。どのようなからくりで事件が起こったのか、かなり気になる部分だ。

■ストーリー

「私を誘拐してください」小宮山佐緒理は潤んだ瞳で俺の手を握りしめた―。報酬は百万円、夫の愛を確かめるための“狂言誘拐”を頼みたいというのだ。便利屋の俺は完璧なプランを練り、見事に“誘拐”を成功させる。しかし、身を隠していた佐緒理が部屋で殺されているのを発見し…。

■感想
夫の愛を確かめるため、狂言誘拐してくれと頼まれた便利屋の男。リスクを承知で実行した結果、狂言誘拐を成功させ、なおかつ小銭を手に入れる。警察につかまらないための誘拐として、当時としては新しい手法を駆使している。

伝言ダイヤルで身代金の受け渡し方法を指定し、ダイヤルQ2で詳細な連絡をする。すべては逆探知されないための方法なのだろう。今では化石のようなサービスのため、このあたりに魅力を感じることはない。が、新しいことを取り入れようとしているのはよくわかった。

狂言誘拐を成功させたかと思いきや、人質役であるはずの佐緒理が何者かに殺されていた。男としては、なぜ?という疑問がつきまとう。タイミングよく押し込み強盗に襲われたのか、それとも別の要因があったのか。男の戸惑いは、そのまま読者の戸惑いへとつながる。

狂言誘拐の怪しさと、存在しないはずの人物など、ミステリーの要素はつまっている。物語の中盤から新事実が目白押しとなる。トリックとしては、物語の流れにそっているので、なんとなく予想できるというのはある。が、佐緒理が殺されたあたりの不可解さは強烈だ。

全ての事実を予測し、男がとった行動は…。保身を選ぶのではなく、仕返しを選んだ男。この手の作品の場合は、主人公は最後にうまく逃げおおせるのが定番だが、本作はそうはならない。危機的状況は脱するが、結局のところ何かしら罪を償う必要はでてきてしまう。

狂言誘拐からスタートし、誘拐中にその依頼者であり人質役でもある佐緒理が殺される。いったいどんな複雑なトリックが隠されているのか。期待したほど複雑な流れではないが、先が気になるのは間違いない。

ミステリーを読み慣れている人ほど、深読みしてしまう作品だ。



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