最後の一球 


 2013.12.10    努力が必ず報われるわけではない世界 【最後の一球】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

作者らしくない作品だ。ミステリーのトリックの部分は特殊だが、犯人がわからず右往左往するというのはない。真犯人がなぜその行為におよんだのかが描かれている。生涯二流で終わったあるプロ野球投手の物語が突如として始まる。唐突感は否めないが、これこそが本作のすべてだろう。天才打者と平凡な投手の出会い。

小さなころからプロ野球選手になることだけを考え、野球一筋に生きてきた男が、プロの世界で味わった苦悩。ミステリーとは程遠い流れだが、物語には重要な要素だ。めずらしく、御手洗が人情家風な雰囲気をだしているのも良い。ドライにトリックだけを暴く冷酷なイメージがあったが、本作のような物語であれば、御手洗の違った良さが見えてくるのだろう。

■ストーリー

母親の自殺未遂の理由が知りたい―青年の相談に、御手洗潔はそれが悪徳金融業者からの巨額の借金であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。さすがの御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成り行きで借金は消滅。それは一人の天才打者と、生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった。

■感想
物語は悪徳金融業者に苦しめられる人々の実態から始まり、裁判でも勝てない現実が語られている。とんでもない状況だが、これが現実なのだろう。さすがの御手洗もガチガチの石頭である司法には勝てない。小難しい裁判の話に終始するかと思いきや、突如として物語はある野球選手の話へうつり変わる。

悪徳金融業者で火事が起こり、それにより大事な書類が焼け落ち、多くの人が助かることになる。この事件と野球選手にどんな関係があるのか。突然変わる場面に、最初は戸惑うが、すぐにその理由は判明する。

幼いころから野球選手になることを夢見た男、竹谷。毎日野球のことしか考えずに学生時代を過ごし、社会人野球へと進む。このあたり、社会人からプロへ進むのは簡単なことかと思いきや、様々な障害があるとはじめて知った。野球しかやってこなかった者が、野球を奪われたらだろうなるのか。

竹谷が天才打者と出会い、それに感化されるようにプロの道へと進む。ひとりの男が夢につき進み、才能の限界から、夢を諦めるまで。厳しい世界だとわかってはいるが、努力が必ず報われるわけではない世界というのは、言いようのない切なさがある。

竹谷の物語が事件とどう関係するのかラストにわかる。天才打者と二流投手にどのような交流があったのか。プロで大成功するような者であっても、人生のどこに落とし穴があるかわからない。竹谷の人生は決して順風満帆ではないが、不幸でもない。

何が一番幸せなのかはわからない。ただ、竹谷の物語を読んでいると、勇気をもらえるような気がした。御手洗の人情味あふれる行動と、竹谷の決意。相手が悪徳金融業者という、まさにわかりやすい悪なだけに、判官びいきの図式が出来上がっている。そうせざるお得ない状況というのはあるはずだ。

事件を起こしたそのバックグラウンドを描かれると、否が応でも強く感情移入してしまう。



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