リベルタスの寓話 


 2014.4.4    どこまでが歴史的事実なのか 【リベルタスの寓話】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

ふたつの中編が掲載された本作。表題作である「リベルタスの寓話」は強烈だ。歴史的事実の中にちょっとした虚構を交えるのだが、その境界線が限りなくあいまいだ。そのため、どこまで信じて良いのかわからなくなる。あとがきでそのあたりしっかりとフォローされているところからすると、作者自身も自分が考えた虚構の世界があまりにリアルなため、気になったのだろう。

リベルタスの伝説が描かれている前半は、かなり興味をそそられる内容だ。後半には事件の全容が明らかになるのだが、グロテスクな事件の割には、トリックが意外にあっさりしている。もうひとつの「クロアチア人の手」は、かなり強引な手法に思えてならない。

■ストーリー

ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、酸鼻を極める切り裂き事件が起きた。心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたのだ。殺害の容疑者にはしかし、絶対のアリバイがあった。RPG世界の闇とこの事件が交差する謎に、天才・御手洗が挑む。中編「クロアチア人の手」も掲載。

■感想
ボスニアの民族問題に心を痛めた作者は、何かしらの思いを込めて本作を描いたのだろう。「リベリタスの寓話」の前編は衝撃的だ。グロテスクな事件もそうだが、リベリタスが登場する歴史物語の印象ばかりが強く残っている。

選挙の不正を防ぐために、全身を銀色の鎧に包まれた子供が、選挙結果の玉を数える。そこに至るまでの強固な選挙方式にも驚かされてしまう。何より、これらの半分は歴史的事実として存在していた、ということに驚くしかない。本作を読むと、歴史に興味がわいてくるのは間違いない。

「リべりタスの寓話」の後篇は、なんだか雑多な印象しかない。無理やりオンラインゲームをからめ、さらにはゲーム上の仮想通貨を、現実の貨幣と交換するRMTが事件に大きく影響してくる。最新の話題をとりいれたのはわかるが、不自然さを感じずにはいられない。

グロテスクな事件の結末として、血液型がかなり大きなポイントとなるのだが…。トリックとして若干ずるいような気がするが、それらを含めて本作の魅力なのだろう。リベルタスの伝説に比べると、事件の盛り上がりは欠けるような気がした。

「クロアチアの手」は、クロアチア人の意味がどれほどあるのか微妙だ。事件は面白い。定番かもしれないが、密室やピラニアに食べられた手など、普通の事件ではない雰囲気が漂っている。物語としては犯人の独白でトリックが解明するのだが、ご都合主義的な部分がかなりある。

ただ、水槽を経由することで、隣の部屋とつながった状態での密室殺人を可能とする、その考え方は新しい。トリックを知って驚くということはないのだが、頭の中で想像する映像はかなりシュールに思えてしまう。

作者がその時に興味をもったことが詰め込まれているといった感じか。



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