溺れる人魚 


 2014.3.27    どの物語も人魚が登場 【溺れる人魚】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

人魚にまつわる物語が収録された本作。印象的なのは、やはり表題作だろう。ミステリー的なトリックより、ロボトミー手術についての記述により衝撃を受ける。実在した事件をベースにしているのだろう。脳の一部を切除するなんてことが、昔は当たり前のように行われていたということに驚いた。

その他の物語はミステリーというよりも、歴史的事実を元にし、作者がフィクションを交え物語を作り上げている。チンギスハーンがユーラシア大陸を征服できた理由。ナチスドイツの時代に頻繁に行われたおぞましい実験。そして、現在の横浜みなとみらい周辺を描いた作品。それぞれに特徴があり、知識欲をかき立てられるような物語ばかりだ。

■ストーリー

オリンピックで4つの金メダルを獲得した天才女性スウィマーが30年後、リスボンで拳銃自殺を遂げた同じ夜、彼女を破滅に追い込んだ医師が射殺された。2人の命を奪った弾丸は同時刻に同じ拳銃から発射されたものだった!?表題作など異郷の都市を舞台に描く3篇と、著者の原点・横浜の今を描く1篇

■感想
「溺れる人魚」はすさまじい。精神に異常をきたしたと思われた天才女性スイマーが、ロボトミー手術をされ、その後…。リスボンで発生する奇妙な事件が、ミステリーとして描かれてはいるが、そこにはあまり印象はない。

リスボンという街の説明と、ロボトミー手術の始まりから恐怖までが描かれており、恐ろしいまでのインパクトがある。精神がおかしいから脳の一部を切除し正常に戻す。それが当たり前に成立していたということに驚いてしまう。ロボトミー手術関連では、実在の出来事を元に描かれているので、より恐ろしくなる。

海外の都市を舞台に描かれた本作。御手洗は登場するが、メインではない。「人魚兵器」では、日本に古くから存在する作られた人魚のはく製の話から始まり、ナチスドイツの時代に行われたおぞましい実験について描かれている。ちょうどクローン羊の実験に成功した時期に描かれたのだろう。

ナチスドイツの時代に、人間と動物の配合実験が行われていたことを御手洗が暴き出す。現実的ではないが、もしかして?と思わせる説得力がある。闇の組織が、ひそかに人間兵器を開発していてもおかしくはないと思ってしまう。

「耳の光る児」は、共通点のない四人の子供に、紫外線を当てると耳が光る症状があらわれた。それを調査する御手洗なのだが…。調査の段階で、ロシアの歴史を調べることで御手洗はある推理を組み立てる。ミステリー的な部分よりも、歴史的事実を学ぶような感覚だろう。

ロシアという国はどのようにして成立したのか。また、はるか昔にチンギスハーンに統治された時代はどうだったのか。自分の知らないことばかりなので、新たなことを学べる喜びを感じてしまった。多少小難しくはあるが、興味深い内容ではある。

どの作品も、必ず人魚が登場してくるのが面白い。



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