2014.8.27 戦争から戻ると、居場所がない 【マイ・ブラザー】 HOME
評価:3
■ヒトコト感想
サムとトミー兄弟の物語。兄は優秀な海兵隊。弟は刑務所へ服役。絵に書いたような、立派な兄にダメな弟。そこに変化がおとずれたのは、兄が戦地へ旅立ち、訃報が届いてからだ。家族の誰もが自慢の兄。鼻つまみ者の弟。兄の死により、弟が兄嫁やその子供たちと仲良くする。
アメリカならではの作品だろう。海兵隊は尊敬され、立派な職業とされる。よくある戦争への美化が激しい物語かと思われたが、後半から一気に流れは変わってくる。戦地で捕虜となり、衝撃的な体験をしたサムは戻ってきてから精神に不調をきたす。そこには、壮絶な戦争体験と、戻ってきたはずが、自分の居場所がなくなっていたことへの戸惑いがあるのだろう。
■ストーリー
海兵隊のサムは、美しい妻グレースと娘たちに囲まれ幸せな日々を送っていたが、サムの弟トミーは刑務所に服役する厄介者だった。しかし、サムだけはトミーと腹を割って話せる存在だった。弟が出所したのと入れ替わりに兄は戦地へと旅立つが、突如、兄の訃報が届き、グレースと娘たちは絶望の淵に突き落とされる。トミーが彼女たちを支え、笑顔を取り戻すようになった頃、突如サムが帰還を果たす。娘達も怯えるほど別人となって。
■感想
最初は戦争賛美の物語かと思った。海兵隊として立派にお国のために尽くす兄と、フラフラした弟。家族の誰もが立派な兄を見習えと言う。それに反発しながらも兄を尊敬するトミー。そんな家族にほころびが見え始めたのは、サムの訃報が届いてからだ。
トミーがサム家族と親密になり、その後、サムの妻であるグレースと良い感じになってしまう。禁断の恋なのだが、兄が死んだとなれば、タブーと感じる必要はないのか…。なんだか複雑だが、グレースやトミーの気持ちは痛いほどよくわかる。
サムは戦地で捕虜として壮絶な体験をしていた。そこでの体験により、サムの精神はおかしくなる。普通に考えると、自分が死んだことにされ、家に帰ってみると弟のトミーが家族のようにそこにいる。となると、自分は死んだ方が良かったのでは?と思うのは当然のことだろう。
それに加え、捕虜生活での壮絶な体験がサムの心をむしばむ。サムを腫物でも触るように扱う家族たちにも問題はあるのだろう。サムの様子がおかしいことに気づきながら、何もできない家族。どうしようもないことだが、辛い場面だ。
戦争賛美がいつの間にか戦争の過酷さを表現する物語へ様変わりする本作。サムが壊れていく姿は、そのままアメリカの現状を表現しているのだろう。強烈すぎる戦地の描写と、疎外感を激しく感じるサムの心はよくわかる。誰のためにあんな辛い目にあったのか!と思いたくなる気持ちは痛いほどよくわかる。
自分が死ぬ思いをして帰ってきたら、弟が自分の場所にいた。その絶望感は、想像を絶するものだろう。実の弟ではなく、見ず知らずの人間であれば、まだ心の壊れ方は違っていたのかもしれない。
ある意味、戦争の犠牲となった家族の物語だ。
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