首折り男のための協奏曲 


 2014.8.7      残酷なのにさわやか 【首折り男のための協奏曲】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

作者が描きだす独特のキャラクターたちがつむぎだす物語。印象的なのは殺し屋である「首折り男」と泥棒の「黒澤」だろう。冒頭の2作品を読むと、連作短編集なのか?と思うが、それは勘違いだとわかる。キャラクターとしての面白さは相変わらずで、変なウンチクを語るのもいつもどおり。本当なのかウソなのか、作中で語られる豆知識には、うならされるものもあれば、そんなまさかと思うものもある。

どのキャラクターも、人間味が薄いと言ってしまえばそれまでだが、無機質な感じがある。それが、どれだけ残酷な場面であろうと、さわやかさを生み出している。ついさっき、人の首の骨を折ってきた男が、コンビニ帰りのような雰囲気を醸し出すところに、作者のキャラの面白さがある。

■ストーリー

首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々! 「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。

■感想
「首折り男の周辺」は、首折り男が登場し、首折り男にそっくりな男も登場する。首折り男が首を折る。かと思うと困った人を助けたりもする。首折り男に間違われた男がおりなす、ちょっと心温まる物語。殺し屋の物語のはずが、いつのまにかイジメられた子供を助ける物語となっている。

ある面では、氷のように残酷であり、別の面では変な優しさがある。恋や浮気について多少描かれており、全体として生々しさがでてくる部分も、作者の描くキャラクターでは、ものすごく清潔なものに思えてしまうから不思議だ。

「僕の船」は、寝たきりの夫には内緒で、妻が昔の恋人の消息を黒澤に依頼することから始まる。なんだろう。黒澤のキャラクターも感情がないようで、変なうんちくと知識により、面白さを醸し出している。そして、調査対象を黒澤が見つけ出し、女に説明する部分が秀逸だ。

過去の運命の出来事を回想し、その相手が実は…。オチには多少驚かされる。昔の恋人をダメ元で調査したら…。ある意味、夢のある物語だ。寝たきりの旦那の前で、昔の恋人の話を熱く語る妻と、気にしながらも話をする黒澤。そのシーンを想像するだけで笑いがこみあげてくる。

「合コンの話」は、間違いなくもっともインパクトのある短編だ。言いだしっぺが不参加で、見ず知らずの男同士が集まった合コン。そこで巻き起こる面白出来事がすばらしい。首折り男の要素も多少ありつつも、合コンでのルールや、男内での取決めなど妙に面白い。

イケメン、普通、不細工とバランスも良く?楽しげな合コン風景もすばらしい。そして、極めつけは、そこに昔別れた元彼女が遅れてやってきたところだ。生々しいやりとりはない。が、妙に丁寧な言葉使いにより、不自然なほど礼儀正しい合コンに思えてしまう。この雰囲気は面白すぎる。

残酷であったり、悪意のある行動でも、作者が描くと、なぜか落ち着いた良い話のように思えるから不思議だ。



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