荒野 


 2014.1.21   少女から大人へ 【荒野】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

少女が大人になるまでの不安定な時期を描いた作品。父親が恋愛小説家であり、複雑な家庭で育つ山野内荒野。中一から高一までを描いた本作では、荒野の心境の変化がはっきりと伝わってくる。人との接触を極端に嫌う荒野。少女独特の潔癖な感覚かと思いきや、別の原因もある。父親の再婚で、同級生の家族ができ、親友の女の子から好きだと告白される。

目立たない地味な存在である荒野が、成長と共に変わっていく。男からするとよくわからない、少女から大人へと変わっていく不安定な心境というのが伝わってきた。男ほど単純で即物的ではない、精神的に満たされることを願う女の不思議さを感じてしまう。本作を女性が読むと共感できるのだろう。

■ストーリー

恋愛小説家の父をもつ山野内荒野。ようやく恋のしっぽをつかまえた。人がやってきては去っていき、またやってくる鎌倉の家。うつろい行く季節の中で、少女は大人になっていく。

■感想
少女が大人になっていく過程で感じること。嫌悪感であったり憧れであったり。複雑な家庭が荒野に与える影響も大きいのだろう。父親があちこちに女を作り、義母と父親の関係もぎくしゃくしてくる。娘としては親の恋愛というのは、なにより目にしたくない部分なのかもしれない。

荒野が感じることは、多かれ少なかれ、子供時代に誰もが感じることなのだろう。家庭環境的に、グレる可能性すらある。そこで明るく健全に成長したのは、友達の助けが大きいのだろう。少女たちの友情とは、なによりも強固なもののように思えてくる。

父親の再婚相手の連れ子に恋をする。少女の淡い恋心が、離れ離れになることでより強くなる。一昔前の陳腐な恋愛マンガのように、連れ子がイケメンなんていうわかりやすいパターンだ。相手のぶっきらぼうな態度が、より恋の炎を燃え上がらせる

他人との接触を拒否する性癖でありながら恋はする。矛盾しているようだが、この矛盾こそが少女時代の恋愛なのかもしれない。父親のことを汚く感じるのもこのころなのだろう。作中ではその描写はないが、父親の自由な恋愛に心が波立つ描写がある。

親友から告白される。それは少女にとって強烈な出来事だろう。綺麗で目立ち、ファンが集う地下組織ができるほどの女の子から告白される荒野。感覚的に男と女で感じることは同じなのだろうか。男であれば気持ち悪い、という感情が強くなり、できれば避けたくなる。

少女の方は告白されたとしても、今までどおりに付き合いを続けている。これは、男と女の違いだろうか。即物的なものをイメージしてしまう男からすると、嫌なものを想像してしまう。女であれば、それは想像しないのだろうか。

少女から大人へと成長していく、不思議な少女の物語だ。



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