上高地の切り裂きジャック 


 2014.1.14   御手洗の意地の悪い焦らし 【上高地の切り裂きジャック】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

2つの中編で構成されて本作。どちらも奇妙な気持ち悪さがある。事件の容疑者は存在するが、物理的にアリバイが成立しない状況であったり、閉ざされた密室から抜け出した幽霊の話だったり。状況が奇妙であればあるほど、興味を惹かれてしまう。特に表題作はグロテスクな描写もあり、御手洗が解き明かすのが死体にまとわりついたハエの分析というから、これまた強烈だ。

「山手の幽霊」は、御手洗だけがひとり確信を持ち調査しているので、まわりの人々は、ただ成り行きを見守るしかない。とんでもなく大掛かりな仕掛けだが、御手洗シリーズであれば、驚きも少ない。論理的な答えがあるものと思いつつ物語を読みすすめることができる作品だ。

■ストーリー

女優は腹を切り裂かれ、内臓を抜き取られ、かわりに石を詰め込まれた惨殺死体で発見された。いったいなぜ、何のために?そして密疑者には鉄壁のアリバイが…。“切り裂きジャック”が日本に甦ったかのような猟奇殺人に、名探偵・御手洗潔が挑む表題作ほか、横浜時代の御手洗が活躍する傑作中篇「山手の幽霊」も収録する。

■感想
表題作である「上高地の切り裂きジャック」は、女優が惨殺死体で発見され、そのグロテスクさから猟奇殺人を連想せずにはいられない。タイトルから想像するのは、連続殺人犯だ。ただ、物語はそうはならない。タイトルで、ある程度先入観を持ってしまうのは当然として、タイトルに比べずいぶんとこじんまりとした事件だという印象はある。

上高地と横浜というふたつの場所をテレポーテーションしたかのような犯人。御手洗だけがすべての謎を瞬時に解き明かしてしまう。ハエが鍵となるのは、なんともおぞましいことだ。

「山手の幽霊」は、地下室に閉じ込められ餓死したはずの人物が、直前に町をふらついていたという疑問と、電車に突然現れた幽霊の話。電車の幽霊が、いかにも心霊話にでてきそうな幽霊であり、髪をふり乱した女が列車の窓に突然しがみついてくるのは、強烈すぎる。

どう考えても幽霊以外ないと思わせておきながら、別の答えを用意する。御手洗が「はい、幽霊です」などと真面目に言うはずもなく、ひとりトリックを知りながら石岡たちには黙っている。読者も石岡側に立つため、御手洗の種明かしを聞くまでは、なんともモヤモヤした気分になる。

どちらの作品も、御手洗がしびれるような推理を展開する。というか、御手洗は早い段階で事件のトリックを見破っていながら、断言しない。まだ確信できるほどの材料が足りないと言う。周りは不思議な事件だと右往左往するしかない。この御手洗の焦らしが面白さのポイントだろう。

幽霊なんて御手洗シリーズでは存在するはずがない。と思いながらも、どう考えても幽霊しかないと思えてしまう。完全に密閉された地下室の入り口はひとつ。そこは閉鎖されて出入りできないはずが、外をふらふらしていた男が入り込み餓死していた。奇妙すぎる答えはかなり大掛かりな仕掛けだ。

御手洗の焦らしに耐えられるか。



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