鏡の花 


 2014.1.10   物語のifを考える 【鏡の花】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

6つの短編からなる本作。短編それぞれに繋がりがあるようでない。ある短編での出来事が起こらなかった世界が、別の短編で描かれている。ここにどんな意味があるのかわからないが、前半の短編では、どこか不幸の影がつきまとう。それが後半になるにつれ、不幸の原因となった出来事が起こらない世界が描かれている。

そのため、読んでいくうちに、悲しい気持ちで始まり、後半ではあの家族が幸せな日常を過ごしていることがなんだか少しうれしくなる。ただ、そこでも何かしらの問題は起こる。繋がりはあるようでない。読者は幸せをねがいつつも、何か不幸が起こるのではないかとビクビクしながら読むことになる。作者は最初からすべてを考えた上で描いた短編なのだろうか。

■ストーリー

製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。

■感想
第一章や第二章は辛く悲しい物語となっている。ベランダから落ちて死んだ姉。水死体となって見つかった夫。どちらも些細な出来事で、そこから始まる不幸な誤解が物語の核となっている。最初の不幸な出来事が起こらなければ…。

辛く悲しい今の現実はないと考えてしまう。ただ、不幸の中にも前向きに進もうとする力を感じることができる。一章と二章での不幸な出来事は、三章以降ではすんでのところで不幸を回避し、幸せな日常が始まっている。この瞬間、なんだかホッとしたような気分になった。

第三章では新たな不幸が夫婦を襲う。息子の死を受け入れがたい夫婦の物語だが、ここでもひとつの不幸が回避されたと思いきや、今度は別の不幸が待っている。運命のいたずらがその後の家族を不幸へと突き落す。

ちょっとした変化で様変わりする人生の恐ろしさと、不幸と幸福は表裏一体なのだと思わずにはいられない流れ。不幸の中にほんの少しの幸せをみつけ、それをよりどころとしてたくましく生きる。ただ、それは若者には効果的でも、息子を亡くした夫婦にとっては生きる力にはなりえない。辛く悲しい物語だ。

第六章 「鏡の花」は、これまでのすべての短編で起こった不幸が、すべて起きなかった場合の世界が描かれている。順風満帆、息子が結婚しかわいい孫ができる。少年は姉と仲よくし、友達と旅行へ行く。ただ、そんな世界にも少しの不幸は起こりうる。

何か起きるのではないか、という怖さはあった。人間の限りない欲望というか、今が幸せならば、さらなる幸せを求める心も描かれている。本作を読み、ふと、自分の状況を考えてしまった。何が幸せかを考えるには、良い短編集なのかもしれない。

物語のifを連作短編の形で描いた短編集。



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