犬とハモニカ 


 2013.12.16    男と女の性質の違い 【犬とハモニカ】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

様々な短編が収録された本作。とりわけ表題作でもある「犬とハモニカ」に注目されがちだ。確かに「犬とハモニカ」のすばらしさは伝わってきた。が、自分の中では「ピクニック」の方が心に響いた。どこにでもいる男女の関係だが、自分と照らし合わせて読むと、かなり状況的に近く、そのため感情移入しやすかった

短編それぞれにドラマがある。が、そのドラマにどれだけ読み手が感情移入できるかを考えると、「犬とハモニカ」よりも「ピクニック」だった。「夕顔」は源氏物語をあまりよく知らない自分としてはかなりハードルが高く感じられた。その他の短編も個性があり、何かしらの印象を残す作品ばかりだ。短編の性質によってこうも印象が変わるのかと、驚かされる短編集だ。

■ストーリー

空港の国際線到着ロビーを舞台に、渦のように生まれるドラマを、軽やかにすくい取り、「人生の意味を感得させる」、「偶然のぬくもりが、ながく心に残った」などと激賞された、川端賞受賞作。恋の始まりと終わり、その思いがけなさを鮮やかに描く「寝室」など、美しい文章で、なつかしく色濃い時間を切り取る魅惑の6篇。

■感想
「犬とハモニカ」は、空港を中心として、行きかう人々の様々な状況を物語としている。空港は多種多様な人が集まる場所。そこで、それぞれの人物ごとに特徴的な物語を作り上げている。すれ違うその一瞬ではまったく関係のない人々が、それぞれ考えながら空港を行きかう。

当たり前のことかもしれないが、それを物語化されると、心に残る。ちょっとしたエピソードから、その後の展開までも想像させる流れはすばらしい。このまま個別のエピソードが広がり、連作短編集のような形で続いていくのかと思ったが、あっさりと終わっている。このさっぱり感も良い。

「ピクニック」は男女の考え方の違いというか、良くあるパターンだ、と思いつつも、それを心地良く読む自分がいる。出会いが元日のファミレスという、ちょっとおかしな状況も良い。そして、「お昼は外で食べたいの」という言葉が魅力的だ。

天気の良い休日に草原に横になりながらぼんやりとする。理想的な休日ではあるが、女の不思議さもまた感じてしまう。そして、自分がもし本作の杏子と夫婦関係にあったとしたら…。なんてことを考えてしまうのも、作者の作品の魅力なのだろう。

「アレンテージョ」は、ポルトガルのゲイの話。ゲイカップルが田舎へ小旅行し、そこでちょっとしたいざこざが起こる。今まで、自分の中ではゲイの話については、あまり受け入れられなかった。なんとなくだが変な拒否反応を示してしまう。が、本作に限っては拒否反応がでなかった。

ゲイのカップルだが、のんびりとした田舎の風景と、ありがちな嫉妬、そして極めつけは、田舎町にたたずむ老婆たち。なんだかこれらの不思議な情景を読まされると、ゲイということがどんどんと薄まり、意識せずに読むことができた。

短編に共通点はない。が、それぞれの個性はすばらしい。



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