犬はどこだ 


 2013.12.17    インターネットは恐ろしい 【犬はどこだ】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

引きこもりから社会復帰するため始めた私立探偵。犬さがし専門のはずが、人探しをするはめに…。新米探偵が難解な事件に挑戦し、右往左往しながら目的を達成するという話。特別な要素があるとすれば、IT関連に深く突っ込んだ物語ということだろう。一方では過去の文献を調査し、もう一方ではITの知識を駆使して事件を解決する。

やはり恐ろしいのは、現代のストーカーがどのようにして相手に近づいていくかという部分だ。当たり前にブログやFacebookで個人情報をさらすことの危険性にも言及している。犬探しと人探しがリンクするかと思いきや、最後まで特別な繋がりはない。多少タイトルに違和感はあるが、ラストの展開は恐ろしすぎる。人間の本性が垣間見えるラストだ。

■ストーリー

開業にあたり調査事務所“紺屋S&R”が想定した業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。―それなのに舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして…いったいこの事件の全体像とは?犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件。

■感想
引きこもりから社会復帰し私立探偵を始める。ずいぶんと極端な流れだが、物語として”元引きこもり”ということが重要なのだろう。人探しの事件は、順を追って少しずつ手がかりが増えていき、物語として前に進んでいるのはわかる。が、もう一方の過去の文献を調査する仕事が同時進行しているが、このふたつの関係が後半になるまでまったく見えてこない。

構成のうまさなのだろう。突如として、「これはそこに繋がっているのか!」と気づく。まったく関係なさそうな二つの出来事をリンクさせ、ひとつの結末へとつなげる。うまさを感じる流れだ。

人探しは調査の結果ある結論へと至る。その過程で登場するストーカーが奇妙に恐ろしい。ブログの過去ログから相手の住所を探り出す。2chなどでは当たり前に行われていることを、物語上では卑劣なストーカー犯罪として描いている。

確かに炎上騒ぎが起こると、いつの間にかその炎上元の職場や住所まで暴かれている。ネット住人の調査能力はすさまじいが、物語として描かれるとかなり異常なことのように思えて仕方がない。ある程度のITリテラシーがある人ならば、不必要な情報は開示しないと思うが…。恐ろしい。

物語のラストは、人探しの依頼を解決することで終わる。が、ハッピーエンドとはいかない。表面上はめでたし、なのかもしれないが、後に引く恐ろしさがある。自分が強烈なストーカーに追い回され、逃げ出すことができない。となると、人はどのような行動をとるのか。

普通の良心的な物語であれば、最後は凶行を起こす寸前で止めるだろう。本作はそうはならない。起きてしまった出来事をそのまま受け入れる主人公。予定調和的な終わりではない、意外なパターンであることは間違いない。

私立探偵モノという平凡なスタートのわりに、ラストの意外性は楽しめた。



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