2014.3.3 虐待は理由になるのか 【北斗 ある殺人者の回心】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
幼少期に虐待を受けた北斗が成長し、殺人を犯し裁判を受ける。物語は幼少期の虐待を受けた時期、束の間の幸せな時期、復讐の時期、裁判の時期と大きく4つにわけることができる。人によって感じ方は違うだろうが、やはり強烈なのは虐待期と復讐期だ。物心ついたころからひたすら虐待を受け続けると、人はどうなるのか。
親の顔色をうかがいながら、常に恐怖におびえる生活。幼児期の経験がどのように性格に影響するのか。物語の結論はかわいそうな北斗、という流れになっているのだが、それをそのまま受け入れるには違和感がある。復讐期の執念の恐ろしさはすさまじい。そこから裁判での北斗の性格の変わりように少し驚いてしまう。
■ストーリー
幼少時から両親に激しい暴力を受けて育った端爪北斗。誰にも愛されず、誰も愛せない彼は、父が病死した高校一年生の時、母に暴力を振るってしまう。児童福祉司の勧めで里親の近藤綾子と暮らし始め、北斗は初めて心身ともに安定した日々を過ごし、大学入学を果たすものの、綾子が末期癌であることが判明、綾子の里子の一人である明日実とともに懸命な看病を続ける。
治癒への望みを託し、癌の治療に効くという高額な飲料水を購入していたが、医学的根拠のない詐欺であったことがわかり、綾子は失意のうちに亡くなる。飲料水の開発者への復讐を決意しそのオフィスへ向かった北斗は、開発者ではなく女性スタッフ二人を殺めてしまう。逮捕され極刑を望む北斗に、明日実は生きてほしいと涙ながらに訴えるが、北斗の心は冷え切ったままだった。事件から一年、ついに裁判が開廷する―。
■感想
虐待を受けた少年が成長し、殺人を犯す。裁判では、幼少期の虐待が原因で…。なんとなく想像できるパターンだが、北斗をどのようなキャラにするかで、物語は変わってくる。本作では虐待を受けた結果、内向きの性格となるが、その後、立ち直り幸せな生活を送る。そこで、里親の死をきっかけとして復讐に燃える。
ひとつのきっかけにより殺人へつきすすむ北斗。物語の結末は、裁判により北斗の不幸な境遇が原因だと語られている。確かにその流れはあるのだが、北斗の心境すべてが読めてしまうので、「それは違うのでは?」と思えてしまう。
もしかしたら、作者はあえてこのようにしているのだろうか。物語自体は死刑か無期懲役かと裁判で争われている。虐待の影響だ、と声高に叫んだとしても、実はそれほど直接的な繋がりはないと暗に示しているのだろうか。北斗を支援する人々の強烈な思いやり。周りの手厚いサポートを受けると、いつの間にか、北斗自身も虐待が原因では?と考えるようになる。
裁判が始まる前の北斗の考えと、裁判中で大きくその考え方が変わっている。ひねくれた思考だが、このパターンが許されるのならば、世間の死刑囚の多くは、無期懲役になるのでは?と思ってしまった。
本作では、あからさまな悪は存在しない。北斗に高額な飲料水を売りつけた男も、表面上はアフリカの恵まれない子供たちを助けるという善意をアピールしている。北斗は当然、心優しい良い人間として描かれている。その他、対立関係にある検事や果ては虐待してきた母親や父親まで、どこかに救いがある。
虐待を繰り返した父親は、厳しい家庭環境により性格が壊れたような描かれ方がされ、母親は夫による暴力で変化したと描かれている。真の悪人がいない世の中なら、誰もが言い訳により善人になれるような気がした。
問題作であることは間違いない。
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