果つる底なき 


 2014.12.27      人間のあさましさ 【果つる底なき】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
元銀行マンだけあって銀行内の権力争いや金に絡む犯罪の描写はすさまじい。作者のデビュー作でもある本作。どうしても、ドラマ「半沢直樹」的な雰囲気を感じずにはいられない。すでにデビュー時から、この緊迫感あふれる雰囲気をだせていたのはすばらしい。

ひとつの企業がつぶれる際の緊迫したやりとり。企業が倒産にいたるまでの経緯や、融資を審査する際のポイントなど、知識的にまったく未知の部分を知ることができ、さらにはミステリーとしてのワクワクドキドキ感がある。金に絡む事件の複雑さと、人間本来のあさましさを感じさせる物語だ。同僚が蜂に刺されて死んだことを不審に思い調査したことから始まり、最終的には壮大な汚職絡みの物語となっている。

■ストーリー

「これは貸しだからな」。謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった…。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう

■感想
組織におもねらず、自分の信念のもとに行動する伊木。言うなれば半沢直樹的人物だ。伊木が同僚の死を怪しみ調査し、そこから数珠つなぎに不正が明らかとなる。ひとつの企業がつぶれ、連鎖倒産した際の怪しげな処理など、会計業務に関する知識がなくとも、すさまじい臨場感で物語は迫ってくる。

正直、このあたりの知識は皆無だが、わかりやすい説明があり、企業が倒産する仕組みや手形の使い方、または、どのようにすればバレないよう不正が行えるのかがよくわかる。ちょっとした経済書的な役割にもなる。

融資課で仕事をする伊木。融資課の仕事は何なのか、非常に興味深い内容となっている。本作を読むと、いち銀行員の考えひとつで、企業がつぶれるか生き残るかが大きく変わるようだ。それはつまり、人の人生を左右する決断だということだ。

作中での伊木の真摯な態度は好感が持てる。物語として伊木が調査する過程で、次々と不正な会計が明るみにでるあたりはドキドキしてくる。初めて知ったことだが、融通手形というものが存在し、それを悪用することで、いくらでも私腹を肥やすことができる。金の恐ろしさを感じる場面だ。

序盤は目的が見えないが、伊木が調査で動くたびに次々と人が死んでいく。黒幕が見えてくるまでは、壮大な金融不正が行われ、裏の組織もかなり巨大なのだろうと想像できた。物語の構成のすばらしさなのだろうか。事件の不可思議さと銀行内の権力争いが巧みに融合している。

銀行内部がこれほど体育会系だとは思わなかった。出身大学で派閥ができるなんてのは、強烈すぎる。栄転、左遷、関連会社への出向など、銀行員の悲しい定めが描かれている。

本作を読むと、もし銀行員に知り合いがいたら、少し見る目が変わってしまうかもしれない。



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