ハッピーエンドにさよならを 


 2014.7.1     バッドエンドの余韻を楽しむ 【ハッピーエンドにさよならを】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

バッドエンディングがつまった短編集。タイトルどおり幸せな結末を迎えた作品はひとつもない。ホラー風味が強く、なおかつ最悪な結末がまっている。となると、手に取るのを躊躇する人もいるかもしれないが、強引なハッピーエンドに飽きた人には良いかもしれない。逆に、強引にバッドエンドにしているようにも思えてしまうのだが…。

ネタバレしてしまうと、とたんに魅力が半減してしまうので、オチは知らない方が良い。オチを読み、驚き、そしてバッドエンドの余韻を楽しむ。そんな作品かもしれない。バッドエンドの形としては、わりと受け入れやすいものばかり。後味が強烈に悪い作品がないのが救いだ。

■ストーリー

夏休みのたびに私は母の実家がある田舎へ行った。新鮮な山海の料理に、いとこたちとの交流。楽しい夏の日々だ。あの部屋にさえ入らなければ…。(「死面」)理恵が合コンで出会い、付き合ったのは、容姿はよいがかなり内気な男。次第に薄気味悪い行動を取り始め、理恵は別れようとするのだが…(「殺人休暇」)。平凡な日常の向かう先が、“シアワセ”とは限らない。ミステリの偉才が紡ぎだす、小説的な企みに満ちた驚愕の結末。

■感想
「おねえちゃん」は、ある程度内容が想像ついた。ある女は叔母さんに自分の境遇を語る。姉に骨髄移植するために生まれてきたのではないかと…。子供への移植を前提として姉妹をつくる親が存在するのだろうか。女の思い込みからとんでもない行動にでるのだが…。

中盤まで読んでいると、内容はある程度想像がついてくる。部屋で語り合う二人の情景を想像すると恐ろしくなる。恐ろしい想像をひたすら語り続ける女。聞かされる方からすると、とんでもなく困惑するだろう。オチは想像どおりだが、そこからハッピーエンドに流れることもできたが、あえてバッドエンドにしている。

「サクラチル」は、作者得意の叙述トリックだ。飲んだくれ亭主がいる家庭で、その亭主が殺された。殺したのは浪人中の息子かと思いきや…。飲んだくれ亭主、生活を支える嫁、東大を目指す息子。そして、事件が起きるとなると、想像することはひとつしかない。

終盤まで、貧乏で苦労した家庭を描き、そこから抜け出すには息子が東大へ進学するしかないと考える家族たち。近所の人たち目線での物語から、最後には真実へとたどりつく。このオチには驚かずにはいられない。オチを表現するまでの引きの強さも相当な作品だ。

「防疫」は、心が痛くなる。平凡な家庭のはずが、嫁が教育に目覚め、娘を虐待しはじめる。終盤まで嫁の異常な教育熱心さと、その犠牲になる娘の姿が描かれている。娘は母親に好かれようと頑張り、嫁は容赦なく娘を虐待する。なんだか悲しくなってくる。

けなげな娘の姿には心がチクチクと痛む。虐待を受けた娘が、無事成長したのだが…。その先の考え方がなんとも恐ろしい。幼いころに虐待を受けた大人は自分の子供にも虐待するという話はよく聞くのだが、それを見越した行動に寒気さえ覚えてしまう。

バッドエンドのみ、これだけそろえると、読んでいくうちに麻痺してしまう。



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