儚い羊たちの祝宴 


 2014.4.29    衝撃的な最後のヒトコト 【儚い羊たちの祝宴】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

「バベルの会」がキーワードとなる5つの事件。陰惨な事件や残酷な出来事が起こり、謎が深まる中、ラストの一言によりすべてが明らかとなる。物語として、なんらかの仕掛けがあることはわかるのだが、はっきりと明言されないままラストへ向かう。読者は気づきながらも確信がもてない。が、ラストの一言ですべてを理解する。

このラストの一言が秀逸だ。ただ、その言葉が登場するだけで、すべてが理解できてしまう。それまでの伏線により、巧みに仕掛けられたことなのだが鮮やかだ。そして、残酷な真実だが、そこに嫌悪感はない。すがすがしいというか、さわやかな印象すらもってしまう。ミステリーというよりも、世にも奇妙な物語的な雰囲気だ。

■ストーリー

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

■感想
「身内に不幸がありまして」というタイトルから想像できない物語だ。屋敷で次々と不可解な死傷事件が起きる。犯人は誰なのか…。礼儀正しいお嬢様が「バベルの会」の合宿に参加することを楽しみにしているのだが、毎回必ず事件が起こり、参加できない。

ミステリーとしての面白さはすくない。が、この世界観がすばらしい。「バベルの会」の怪しさもそうだが、登場人物たちの怪しさが極まっている。そして、ラストの一言を読むことで、すべてを理解できる。見事な出来栄えだ。

「北の館の罪人」も、鮮やかな一言にしびれてしまう。北の館に軟禁された女は、そこである男と出会う。その男は、本来なら館の当主となるべき男だった…。伏線として人を殺したことのある人間の手は、赤く染まっているというのがある。

ただ、物語のスパイスとして告げられた言葉なのかと思いきや、ラストの一言に大きく影響してくる。日に当たることで青色が抜ける絵を描き、男は死んでいった。意味不明な出来事が続くようで、すべてが計算されつくしている。考え抜かれた短編だ。

その他の物語は、すべてはっきりとは明言しないが、読者の予想通りのオチとなる物語ばかりだ。それらすべてに「バベルの会」が登場する。ただ、読書をするためだけに集まる会なのだが、強烈な怪しさがある。残酷な事件が起こり、それに関わる者たちは必ず「バベルの会」へ参加している。

ラストの「儚い羊たちの祝宴」では、「バベルの会」の参加者たちがターゲットとなる。世界観のすばらしさもそうだが、毎回特異なキャラを登場させるのがすばらしい。祝宴の料理を作るためだけに存在する厨娘などは、常人では考えつかないことだ。

繋がりがあるようでない短編集だ。



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