はだかんぼうたち 


 2014.3.10    本能のおもむくままに 【はだかんぼうたち】  HOME

                     

評価:3

江國香織おすすめランキング

■ヒトコト感想

大人たちの恋愛を描いた作品。タイトルどおり、大人たちは服で自分を隠すのではなく、本能のおもむくまま、世間体を気にすることなく、まるで裸のようにすべてをさらけ出し、恋愛を謳歌する。しがらみに縛られた大人からすると、うらやましい気持ちよりも、痛々しさを感じてしまう。60歳を目前に家族を捨て恋愛に走る。主婦は親友の彼氏と不倫をし、出会いと別れを繰り返す。

こう書くとドロドロとした恋愛小説のように感じるが、中身は非常にさわやかだ。なぜなら、そこに存在するはずの嫉妬がいっさいないからだ。彼の気持ちが親友の主婦に向かっているとわかっても受入れる。恋愛にはつきもののうっとおしさがないのが良いのかもしれない。

■ストーリー

桃*35歳独身、歯科医。6年付き合った恋人と別れ9歳下の鯖崎と交際中。響子*桃の親友。元走り屋の夫や4人の子供とせわしない日々を送る主婦。山口*60歳目前に家族を捨て響子の母・和枝と同棲。だが和枝が急死し途方に暮れる。鯖崎*桃の恋人。

やがて響子にも惹かれはじめ桃にその気持ちを公言する。出逢い、触れ合ってしまう“はだかんぼう”たちは、どこへたどり着くのか。年下男性との恋。親友の恋人との逢瀬。60歳目前での同棲…。心に何もまとわない男女たちを描く長編恋愛小説。

■感想
本作の主人公は桃なのだろう。桃を中心として、それぞれの恋愛が描かれている。恋人と別れ年下の男と付き合うが、その男が桃の親友である響子(主婦)に心変わりする。かなりヘビーな恋愛体験だが、桃はそれをすんなり受け入れている。

どこか悟りをひらいたような、恋愛経験が豊富になりすぎて、ちょっとしたことでは動じない域に達しているようだ。桃と恋人の鯖崎の関係は、いびつながらも、そこにドロドロとした感情はない。すべてが本能のおもむくまま、多少の嫉妬心があったとしても、それを覆い隠すような理性が物語すべてを覆っている。

桃と陽の似たもの姉妹の母親と、ネットで知り合い付き合い始めた山口の存在も特殊だ。60手前で家族を捨て女の元へ走る。が、その女はほどなくして死ぬ。なんとも複雑な関係だが、元家族との繋がりを捨て、新たな人生を歩み始める。世間体やしがらみなど一切を捨て、自分の心が求めるままに行動する。

自暴自棄にも思えるような行動も、その後の充実した日々を考えると、納得せずにはいられない。家族を捨て、恋人に死なれ、その後農業に従事する。世捨て人のような生活にも、人生の新たな形が見えてくるような気がした。

印象的なのは、4人の子供の主婦である響子だ。太り気味で小学生の娘にも馬鹿にされる容姿でありながら、ある日突然親友の恋人から言い寄られる。その時、普通の主婦ならばどうするのか。親友の彼氏という関係を貫きながら、ある日、一線を越えてしまう。

響子の考え方の変化は、まさにタイトルどおり、すべてのしがらみを脱ぎ捨てた結果なのだろう。ただ、本作のすばらしいところは、ドロドロとした恋愛を、そう感じさせないところだ。嫉妬や恨みがない。本能のおもむくまま裸になる代わりに、自分がその被害を受けたとしても潔く受け入れる。

なんだか、すばらしい人生のように感じてしまう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp