2014.5.24 計り知れないプライド 【五分後の世界】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
五分ずれた世界には、「もうひとつの日本」があった。地下奥深くで生活する日本人。圧倒的な軍事力をもってしても壊滅できない地下の日本。少数だが訓練された兵士と技術力で他を圧倒する日本というのは、読んでいてワクワクしてくる。「もうひとつの日本」が幸せだとは思わないが、民族の誇りをもち、諸外国におもねらない日本には強烈な魅力がある。
地上の日本はボロボロであっても、トンネルを掘り、ゲリラ戦を繰り返す日本人たちには、計り知れないプライドを感じてしまう。今の日本人とはまったく違う精神構造をしているのだろう。五分ずれた世界は、暗黒の世界ではあるが、精神的には満たされた世界なのだろう。ゲリラ戦の描写は鳥肌がたった。
■ストーリー
箱根でジョギングをしていたはずの小田桐はふと気がつくと、どこだか解らない場所を集団で行進していた。そこは5分のずれで現れた『もう一つの日本』だった。『もう一つの日本』は地下に建設され、人口はたった26万人に激減していたが、民族の誇りを失わず駐留している連合国軍を相手に第二次世界大戦終結後もゲリラ戦を繰り広げていた……。
■感想
「もうひとつの日本」で繰り広げられる激しい戦闘。五分後の世界に迷い込んだ小田切の目の前に突如登場した兵士は、まさにヒーローのように感じられる。訓練された身のこなしと、ハイテク技術を駆使した装備。少数の兵士たちで、大多数の国連軍を撃破する。
ゲリラ戦の描写がすばらしい。兵士たちの有無を言わさぬ迫力が伝わってくる。対比として、もうひとつの日本に迷い込んだ小田切の存在があるだけに、兵士たちの能力の高さが十分表現されている。無表情で相手を殲滅する兵士たち。恐ろしくもあり、カッコよくもある。
ゲリラ描写は、ベトナム戦争当時のベトナムを意識しているのだろうか。地下に掘られたトンネルからあらゆる場所へ出現し、国連軍を殲滅していく国民軍。圧倒的な物量を持つ国連軍でも、お手上げ状態となる。判官びいきではないが、圧倒的大多数に少数が勝つのはワクワクしてくる。
陰鬱な世界のはずが、そこにだけ希望が持てるような気がしてくる。さらには、地下で辛い生活を強いられているはずの国民たちが、プライドを持ち生活している姿に、感動すら覚えてしまう。物質的に満たされた生活ではないのかもしれないが、そこには精神的に満たされた人々しかいない。
衝撃的な物語は突如として終わりを迎える。小田切がその後どうなったのか、兵士たちがどうなったのか不明だ。ただ、現代から迷い込んだ小田切が、いつのまにか「生きる」ことだけを考えた立派なゲリラに変貌している。虚構の世界のはずが、作者の濃密な描写により、すぐ近くの出来事のように思えてくる。
自分が「もうひとつの日本」に迷い込んだとしたら…。なんてことすら考えてしまう。日本の現状を考えると、世界に負けない日本というのは、民族の誇りをもつことを思いださせてくれるような気がした。
一歩間違えれば、危険な思想に走りかねないが、衝撃的な作品であることは間違いない。
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