ガンコロリン 


 2014.10.17      医者ならではのシニカルな視点 【ガンコロリ】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

極端な医療の現場を面白おかしく描いた作品。完全な健康体を維持するためには、どれだけの犠牲を払う必要があるのか。夢の新薬が開発されたとして、その先に何が待っているのか。医療が極度に自動化された社会では、どのようなことが起きるのか。一般人は、「こうなれば良い」と単純に考えてしまうが、実は、それがものすごく危険なことだと作者はひねくれた描き方で表現している。

誰もが健康体になりたい。完全な健康体になるプロジェクトが存在し、それに参加すれば誰もが健康体になれる。夢のようなプロジェクトだが、その代償はでかい。バチスタシリーズのようなミステリー的流れもよいが、医療に対してシニカルなスタンスで描かれる本作も良い。

■ストーリー

夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など五篇を収録。

■感想
「健康増進モデル事業」は、国家プロジェクトで健康体を作り出すとどうなるのか、という話だ。健康体になるには、その病気の元を断つしかない。となると、一般社会人にとっての病気の元はストレスということになる。ストレスをなくすためには…。

国家プロジェクトとしてすすんでいくと、誰も文句は言えない。国家により強権を発動されると、誰もが健康体になれるだろう。では日本国民全員が健康体になれるようにすれば良い。なんてあさはかな考えを、最後のオチで打ち砕いている。

「ガンコロリン」は、表題作にもなっているので、印象的な作品だ。ガンを撲滅する画期的な薬ができた。それを使えばたちどころにガンは消滅する。しかし、その結果。医者ならではの視点だ。ガンという病気により、仕事ができている人もいる。

万能薬ができれば、平均寿命は延びるかもしれないが…。一般人が考える万能薬の未来の、さらに先を行くのがすばらしい。極端な話、すべてに有効な薬ができたら、医者はいらない。が、医者がこの世からいなくなったのち、万能薬でも利かない病気がでてきたら…。

「ランクA病院の愉悦」は、TPPによる医療保険の自由化がなされた場合の未来を描いている。医療の費用が払えない人向けに、自動化された医療システムができあがった。質問に答えるだけで、たちどころに処方箋がでてくる。

銀行のATMのようなシステムだが、非常にシニカルな描き方をしている。医療が高価になれば、簡易医療は必要となる。実は、人類の未来を予言しているような作品かもしれない。じっくりと医者が面と向かって話を聞いてくれるのは、患者の自己満足でしかないのかもしれない。

医者ならではの視点が面白い。



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