2013.12.4 伏の悲しい人生 【伏 贋作・里美八犬伝】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
人であって人ではない、犬の血が流れる伏が人間に害をなす。伏を狩る猟師・浜路が主人公の物語。里見八犬伝が作中に登場し、それをマネた偽の物語が贋作・里見八犬伝として登場する。一見すると人と変わらない容姿だが、犬のように四足で走り、人を噛み殺す。物語を読むと、恐ろしさというより、伏の悲しさばかりが印象に残っている。
寿命は犬と同じで20年ほど。人と変わらない生活を送り、正体がばれると暴れだす。猟師を恐れ日本中を逃げ回り、短い人生を終える。人に害をなすから狩られるのだろうが、狩る側と狩られる側であれば、狩られる側に同情してしまう。伏のキャラクターが秀逸なだけに、狩られるシーンというのは、言いようのない悲しさがつのる。
■ストーリー
伏―人であって人でなく、犬の血が流れる異形の者―による凶悪事件が頻発し、幕府はその首に懸賞金をかけた。ちっちゃな女の子の猟師・浜路は兄に誘われ、江戸へ伏狩りにやってきた。伏をめぐる、世にも不思議な因果の輪。光と影、背中あわせにあるものたちを色鮮やかに描く傑作エンターテインメント。
■感想
江戸が舞台のエンターテインメント。物語的には猟師である主人公の浜路が、伏を退治するという流れだ。ただ、伏が生まれた理由が贋作・里見八犬伝として語られている。本家の里見八犬伝ならば、八犬士たちが活躍するのだが、本作では伏として人間に害をなす者として描かれている。
となると、伏を狩る者である浜路の活躍に胸躍るはずが、そうはならない。猟銃をぶっ放し、伏を打ち抜く。ただ、伏が人間と変わらず生活し、ひとつのキャラクターとして確立されると、浜路の活躍がむなしいことのように思えてしまう。
花魁や役者や医者に化け、人間の生活に紛れる伏。寿命は20年と短いが、その人生をまっとうする。猟師に狩られのが先か寿命が尽きるのが先か。伏が浜路と最後の会話をするシーンなどは、妙に伏に対して感情移入してしまう。自分たちが生まれた意味は何なのか。
因果の因は贋作・里見八犬伝に描かれていたが、果は…。伏として生きる意味と、ただ人間に害をなすからという理由で伏を狩り続ける浜路。終盤では浜路が伏と会話し、そこにちょっとした友情めいたものまで生まれ始めている。
物語は、伏の生きる意味を問う流れかと思いきや、ラストは単純な伏を狩る物語になっている。さぁ、これからも浜路たちの伏を狩る旅は続く…。まるで不人気マンガが、ラスボス直前に打ち切りとなり、さぁこれから…。で終わるような、そんな雰囲気を感じてしまった。
倒すべき伏のラスボスがいたわけでもない。そのため、物語の終わりとしては、なんだか気が抜けたような感じだ。思わず、続編があるのか?と思ってしまうほどの終わり方だ。伏メインのシリアス路線であれば、また印象も違ったのだろうが、猟師が主人公だと変に明るいエンターテインメントになっている。
伏の悲しい人生の物語はすばらしい。
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