2014.1.12 半フィクション的 【エデンの命題】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
アスペルガー症候群の子供たちだけが集められた学園。学園が存在する意味は…。世界を支配する財団の存在や、支配者層が何を考えているのか。フィクションなのだろうが、現実にありそうで恐ろしい。アスペルガーの子供が、自分の存在意義を考え、生きるための行動にでる。世界を支配する財団は、都市伝説の定番だ。
本作は支配する側とされる側の圧倒的な違いを描き、この世界の、あらがいようのないルールを提示している。本作が荒唐無稽に思えないのは、すべてが実現可能だからだろう。もしかしたら、世界のどこかで、本作のような学園が存在しているのかも?と思わせる力がある。人類は平等だという建前を根底からくつがえすような思想が、世界には存在するのだろう。
■ストーリー
アスペルガー症候群の子供たちを集めた学園から、少女が消えた。残されたザッカリ・カハネのもとに届いた文書に記されていたのは、世界支配に取り憑かれた民族の歪んだ野望と、学園の恐怖の実態だった。生きるため、学園を脱出したザッカリを待ち受ける驚愕の真実―。ほかに、「21世紀本格」の嚆矢となった「ヘルター・スケルター」を収録した歴史的傑作中編集。
■感想
2つの中編からなる本作。表題作である「エデンの命題」は、都市伝説にありそうな物語だ。アスペルガー症候群の子供たちだけを集めた学園。クローン人間や、世界を支配する財団の存在など、現実の出来事を物語に組み込み、真実味を高めている。世界を支配する存在と、支配される存在には大きな違いがある。
自分の存在意義に気づいたザッカリの絶望感は、想像を絶するものだ。何のためにこの世に生まれてきたのか。本作を読むと、世界は絶望に満ちているように思えてくる。そして、これから技術が発展すれば、間違いなく現実世界でも同じようなことを考える人間が現れるということを思わずにはいられない。
「ヘルター・スケルター」は歴史的事件を題材として、作者の想像力により新たな展開を描いている。チャーリー・マンソンの事件とつながるのだが、自分はこの事件を知らなかった。ただ、読んでいくうちに登場してくる人物が、知っている人物ばかりだったので、想像はついた。
人間の脳には様々な秘密がある。脳科学とベトナム戦争と実在の事件を巧みに構成し物語を作り上げている。人間の脳にはまだまだ未知の部分があると言われているが、作者の脳に対する考え方というのは、未知の部分への強烈な興味があるように思えてくる。
どちらの短編も現実世界を取り入れているため、半フィクションのような感じだ。クローン技術により人の欲望はどうなっていくのか。不老不死を目指す金持ちたちが群がるのは容易に想像がつく。それを物語として描き、恐ろしい未来を予言するような流れとする。
しかし「エデンの命題」も「ヘルター・スケルター」どちらも救いがあるのがすばらしい。辛く苦しい現実だけを読まされ、何の救いもないと読後感は良くない。多少なりとも希望があれば、印象は大きくちがってくるだろう。
作者の多種多様な知識が物語に反映されている作品だ。
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