獏の檻 


 2014.9.25      寒村で起きた事件 【獏の檻】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

過去の事件で死んだと思われた女が、自分の目の前で電車に轢かれてしまう。そこにどのような理由があったのか。過去、自分の父親が犯した事件の真相をめぐる物語。村の風習や掟。小さな村であれば、真実はどうあれ、疑われたことで村にいることはできない。田舎の村で巻き起こる様々な出来事。昆虫の習性や、田舎独特の儀式などが事件に大きくかかわっていく。

ミステリー的な謎はそれほどでもない。事件の真相を予測したのだが、実は別の真実がそこには隠されていた。関係者同士の人間関係により、あらゆる想定が立てられる物語。強烈なインパクトはないが、田舎独特の雰囲気が人を追いつめる雰囲気が伝わってきた。

■ストーリー

あの女が、私の目の前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わり、行方不明だった女が、今になってなぜ…真相を求めて信州の寒村を訪ねた私を次々に襲う異様な出来事。果たして、誰が誰を殺したのか?薬物、写真、昆虫、地下水路など多彩な道具立てを駆使したトリックで驚愕の世界に誘う、待望の超本格ミステリー!

■感想
過去に父親が起こした殺人事件。その被害者と思われていた女が、数十年後に自分の目の前に現れ、そして電車に飛び込んだ。衝撃的な物語は、過去の事件の真相が明らかになると、より複雑化していく。主人公の男は、嫁と離婚し、息子と月一度だけ面会ができる。

男は精神を病んでおり、薬が手放せない。この時点で何か普通ではない雰囲気を感じてしまう。息子が何者かに殺されようとしたり、過去の事件をめぐる複雑怪奇な現象が、恐怖感を引き起こす。

男が幼いときに見た事件の真相は強烈だ。それを告白する場面では、やはり幸せな終わりはないのだと思えた。作者の作品全体に言えることだが、いびつで不幸な生い立ちや家庭が多い。それに輪をかけて悲惨な出来事が待っている。なぜ、ここまで辛く苦しい状況になるのか。誰も幸せにはならない。

例え、真実を知ったとしても、そこには不幸しかない。ラストはかすかに希望がもてる終わり方だ。すべてを無にすべき行動がなされたが、主人公の男は偶然の要素で生き残る。これだけ不幸が続くと、かすかな幸せがものすごく貴重に思えてしまう。

本作ではマニアックな知識が詰まっている。田舎での蜂追いの方法に始まり、田舎独特の風習などが添え物ではなく、物語の根底に関わってくる。信州の寒村が大きなポイントなのだろう。強烈なインパクトはなくとも、作者独自の色はでている。

ただ、ミステリーとしてもっと驚く結末を期待していたのだが、ある程度想定内の答えだった。あるひとつの結論へと読者を導いておきながら、別のまったく違った答えを用意する。それも主要人物が犯人となる、定番的流れは外していない。

田舎独特の雰囲気というのは、それだけで物語の基となるのだろう。



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