アルカトラズ幻想 


 2014.9.17      犯人の論文はすさまじい 【アルカトラズ幻想】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

本作は複数のパートから成り立っている。凄惨な猟奇殺人事件が発生した部分、犯人の論文と犯人逮捕まで、アルカトラズに収容された犯人、そして、地下世界。それぞれが大きな意味では繋がっているが、作品としての連続性をあまり感じない。なぜかというと、回想や過去との繋がりが示されないので、ぶつ切りにされた印象だ。アルカトラズでの生活では、それだけで単体の作品のように思えてしまう。

特に前半部分と後半では大きく印象が異なる。前半の事件と、論文の絡みは非常に興味深く、巨大恐竜が地球に存在できた説明など、かなりの説得力だ。猟奇的な事件の理由を論文だけで説明し、その後は、あまり論文は関係なく、ひとりの男の勘違いで物語はすすんでいく。

■ストーリー

一九三九年十一月二日、ワシントンDCの森で、娼婦の死体が発見された。被害者は木の枝に吊るされ、女性器の周辺をえぐられたため、股間から内臓が垂れ下がっていた。時をおかず第二の事件も発生。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然となる中、意外な男が逮捕され、サンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて心ならずも脱獄した男は、奇妙な地下世界に迷い込む―。

■感想
アルカトラズに収容されるまで、ひとつの物語として興味深いが、大きなオチを期待してしまった。猟奇的な事件が起こり、その原因を探るのは定番だ。結局のところ、犯人逮捕につながるのは犯人の論文からだ。その論文が直接猟奇殺人には繋がらないが、考え方から連想するのはすばらしい。

特に、論文で説明されていることは、かなり衝撃的だ。論文では恐竜がその巨大な体を地球で維持できた理由が語られている。重力に注目し、それが猟奇事件へつながるのは強引なような気もするが、納得させられてしまう。

アルカトラズに収容され、そこでの生活は、なんだかやけに平和に感じてしまう。猟奇事件や論文についての説明はほとんどない。ただ、一時の気の迷いとして説明されている。このあたりが、前半の事件とアルカトラズでの生活に繋がりがないように思えた理由だろう。

まったく別の中編だと説明されたとしても、違和感がない。アルカトラズから地下生活までの不可解さはさすがだ。アルカトラズの地下に巨大な街が存在し、そこに迷い込んだ男。どのようなカラクリが隠されているのか、気になることは確かだ。

ラストは、アルカトラズの地下生活のオチが語られている。読者を騙す手法としては、多少強引に感じてしまう。アルカトラズの地下には街が存在すると妄想的な表現をしておきながら、男はまさしく地下での生活を経験する。

謎の暗号や、住人たちの怪しげな行動など、何かがあると感じるが、その何かがわからない。オチが判明すると、多少がっかりするが、これが現実的な答えなのだろう。時代背景や、長崎の軍艦島の特徴などを考え作られた作品なので、終戦直前の日本に興味がある人にはたまらないかもしれない。

前半と後半の別物具合はすさまじい。



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