安達ヶ原の鬼密室 


 2014.9.20      ゴマすり探偵が活躍 【安達ヶ原の鬼密室】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

冒頭、子供向けミステリーのような短編が始まり、その後、アメリカを舞台にした殺人ミステリーが始まる。てっきりオムニバス形式かと思いきや、そうではない。メインの鬼密室がスタートし、終戦直前の田舎を舞台にした奇妙な事件が描かれている。冒頭の2つの作品の意味は?なんてことを忘れ、物語に没頭してしまう。

5mもの巨大な鬼を見たという少年の独白形式なのだが、なにより事件を解決する探偵がすばらしい。すべてを見通したように断言する八神が、過去の事件を解き明かす。八神は気難しい探偵ではあるが、警察組織の上層部にゴマをするという、ちょっと変わったキャラ設定だ。鬼密室の物語が終了すると、すべての意味がわかる。前2作品は、ポイントとなるトリックが同じだと言いたいのだろう。

■ストーリー

太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原兵吾少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る“鬼”に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内には七人もの死体が残された。五十年の時を経て、「直観」探偵・八神一彦が真相を解明する。

■感想
子供向けミステリーは、すべてがひらがな表記であり、非常に読みにくい。大事なものを使わなくなった井戸に落とした子供たちが、泣きわめくという作品だ。これだけ読むと意味不明だ。次に始まるアメリカを舞台にした作品も、わりとありきたりかもしれない。

連続殺人事件が発生するのだが、死体が木の上に放置された部分が謎らしい。2作品とも解決されることなく、鬼密室の物語が始まる。戦時中の田舎で巻き起こる鬼騒動。何を鬼と見間違えたのか、米兵なのかそれとも…。

安達ケ原の鬼密室の謎はかなり大掛かりだ。5mの巨大な鬼が窓からのぞきこむ。負傷した日本兵たちが次々と殺されていく。その死体も、人が到底とどかないような高い場所に吊るされたりもする。そして、水のない部屋で老婆が溺死する。

少年の目から見た奇妙すぎる事件の真相を解明するのは、八神探偵だ。この八神がすさまじい個性をはっきする。手がかりは少年時代の経験を告白した老人の手記しかない。にもかかわらず、八神は早々と事件の結果を断言してしまう。この強引さはキャラクターの個性としてはすばらしい。

事件が解決し、衝撃的で大掛かりなトリックが解明される。トリックの理論は分かったのだが、それを映像としてイメージすると、そのすさまじさがわかる。鬼密室としては終わりだが、その後、アメリカを舞台にした物語の続きが待っている。

しょうもないB級映画的な展開かと思いきや、ここでも鬼密室のトリックと同様の仕掛けが謎を解くカギとなる。ここまでくると、なんとなく意味が分かり始めた。すべての作品がある一つのパターンを、重要なトリックとしているということだ。子供向けミステリーも、井戸に落ちた宝物を拾うのに、同じ理論が使われている。

まとまりのないオムニバスかと思いきや、意外な繋がりがある。



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