夢の宴 私の蕗谷虹児伝  


 2013.3.6     知らない人物の伝記を読む 【夢の宴-私の蕗谷虹児伝-】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

蕗谷虹児という名前は聞いたこともない。おそらく多くの人が、自分と変わらない印象なのだろう。いった何者なのか。絵画家らしいのだが、代表作が何なのかもわからない。絵画に詳しい人たちにとっては、有名なのかもしれないが、よくわからない。そんな虹児の人生を描く。まったく知らない人物の伝記を読むのは、新たな発見があってよい。虹児の人生というのは、貧乏の中にもたくましさを感じてしまう。昭和の時代に、樺太やパリにまで移住した虹児の破天荒な人生は、常に絵を描き続ける人生だったのだろう。ある程度稼げるようになったとしても、金が入れば太っ腹に遣い、なければ借金をする。芸術家らしいといえば、らしい性格だ。

■ストーリー

大正・昭和を通じて、女性を熱狂させた挿し絵画家虹児。早熟なデビュー、パリのサロン・ドートンヌでの活躍、帰国後の円熟。竹久夢二の頽廃の美とは異なる清冽な抒情画は、時代の象徴として人びとの心に生きる。一代の流行児の波瀾の生涯をたどり、新境地を拓く長篇伝記小説。

■感想
蕗谷虹児の名を知っている人がどのくらいいるのか。絵画家がどのような人生を送っていたのかが、作者の関係者への取材により物語形式で描かれている。大酒飲みの父親の元に生まれ、常に苦労し続ける幼少時代をすごした虹児。衝撃的なのは、5歳の虹児に何10キロもの道を歩かせ、妻の実家へ金作に行かせた父親だ。小さな虹児が、ひたすら電信柱をたどりながら歩く姿を想像すると、涙がでそうになる。ろくでなしの父親の元に生まれたばかりに、不幸な少年時代をすごしたはずが、のちに成長した虹児が父親を一切恨んでいないことに驚かされてしまう。

画家としてどれだけ有名なのかわからない。虹児は挿絵を描き生計を立てていたようだが、よくわからない。竹久夢二であれば、なんとなく絵は思い浮かぶ。虹児が絵画家として、どのような道を歩んできたのか。芸術家らしくよい越しの金は持たないだとか、頼ってくる者をすべて助ける親分肌だったとか、女関係が派手だったとか…。通り一辺倒のよくある伝記のパターンではなく、虹児の良い部分と悪い部分が入り混じり描かれている。妻をないがしろにし、愛想をつかされたにも関わらず、こりずに再婚する。これが芸術家なのだろう。

作者は虹児の子供や孫にまで取材している。そこでは、子や孫たちが驚くほどに虹児に対して良い印象ばかりを語っている。他人に迷惑をかけることはあっても、芯は心優しく、仕事に真面目な絵画家だったのだろう。起きている間は常に絵を描いていた、という印象をもたれるほど、絵画づけの毎日は、常人では想像できない境地だ。虹児の波乱万丈の人生は、阿刀田高が興味をもつだけあって、物語としての面白さがある。多少、脚色があるにしても、単純な読み物としての面白さがある。

蕗谷虹児という、一般的に知られていない人物の興味深い人生だ。




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