夢判断  


 2012.4.2   今でも通用するブラックさ 【夢判断】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ブラックで奇妙な短編集。作者のブラックな短編に慣れてきたのか、それほど衝撃は受けないが、それなりに印象に残るものはある。時代を感じさせる短編や、当時世間をにぎわせた事件をオチにもってきたりと工夫されている。本作が出版されたのはいつなのかと調べてみたり、そのとき自分は何歳だったのかなんていうことを読みながら考えたりもした。登場人物の給料の金額や、結婚詐欺の物語では、詐欺の手口なども時代を感じる描写かもしれない。作者の作品としては「ナポレオン狂」や「冷蔵庫に愛をこめて」が衝撃だったために、その美化された印象をこえるのはなかなか難しいだろう。もし、本作を最初に読んでいたとしたら、また評価は変わっていたかもしれない。

■ストーリー

阿刀田高の奇妙な短編集。「あの人をころして」、「柳の下のジンクス」、「銀座の恋の物語」、「蜜の匂い」、「ベター・ハーフ」、「殺意」、「海が呼ぶ」、「凶事」、「自殺クラブ」、「紅白梅の女」、「演技」、「夢判断」、「干魚と漏電」、「勝ち馬情報」を収録。

■感想
まず冒頭の「あの人をころして」は、本作の中で一番インパクトがあるかもしれない。「あの人をころして」とだけ書かれた差出人不明の手紙と千円札が同封されてくる。一週間に一通送られてくる手紙に男は心あたりがない…。オチとして当時世間を騒がした青酸コーラ事件をもってくるのがすばらしい。最初はまどろっこしく感じたが、心当たりのない男がとまどう場面と、そこから発想を転換し、行動にうつし、さらには衝撃的なオチがある。青酸コーラ事件はほとんど知らないが、時事問題をそのままオチにもってくるのはすばらしい。

「ベター・ハーフ」は作者の得意なパターンだ。男女平等の考え方を強くもつ女が、友達のすすめでお見合い写真を撮ったのだが…。読者にあるパターンを想像させ、それを最後に大きく裏切る。男まさりでNEWS WEEKをカフェで飲むような女性ならば、どんな女性だろうと、読者が思うことを逆手にとっている。男女平等が叫ばれた時期なのだろう。かといって女性が社会に進出することに抵抗がある男が多い中で、本作の物語が生まれたような気がした。

「凶事」はオチというよりも、そこに至るまでの過程が面白い。生まれたときから病気がちな姉。何かにつけ健康な妹は、我慢を強いられる。姉ばかり贔屓され、病気を理由になんでも許される。そんな姉が飛行機事故で…。気の毒な境遇だという思いもあれば、この妹のやりきれない怒りというのは伝わってくる。死ぬ死ぬといいながら、長生きする姉と、その姉のせいで迷惑をこうむる身内たち。病気を理由になんでも許される姉というのがまた強烈だ。妹の心の声は、小憎らしいまでに真実をついているような気がした。

相変わらずブラックな面白さがある。




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