八日目の蝉


 2012.10.1    子を持つ親は必ず泣ける 【八日目の蝉】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
小さな子どもを持つ親であれば、何かしら心に響くものがあるだろう。子どもを誘拐し、育てた女。そこには親子以上の愛情がある。別れの場面では、因果応報とわかっていても、涙がでてしまう。何も知らない子どもは、ただ、母親と離れ離れになるとしか思わない。すべてを理解していたとしても、子どもの泣き叫ぶ姿というのは、心に響いてしまう。本来なら、子どもを誘拐された母親の方に同情が集まるべきところだが、本作の作りでは、誘拐した擬似親子にばかり感情移入してしまう。助け出された恵理菜にとっては、本当の家族とは何なのか、かなり混乱したことだろう。誘拐犯の女が、心から子どもの成長を願い、本当の家族以上の関係を作り上げたことが、本作のすべてだ。

■ストーリー

不実な男を愛し、子を宿すが、母となることが叶わない絶望の中で、男と妻の間に生まれた赤ん坊を連れ去る女、野々宮希和子と、その誘拐犯に愛情一杯に4年間育てられた女、秋山恵理菜。実の両親の元へ戻っても、「ふつう」の生活は望めず、心を閉ざしたまま21歳になった恵理菜は、ある日、自分が妊娠していることに気づく。相手は、希和子と同じ、家庭を持つ男だった。過去と向き合うために、かつて母と慕った希和子と暮らした小豆島へと向かった恵理菜がそこで見つけたある真実。そして、恵理菜の下した決断とは・・・?

■感想
誘拐犯との生活。それは、物心ついたばかりの女児にとっては、間違いなく家族なのだろう。複雑な家庭環境。助け出されてから、恵理菜が心を閉ざしてしまうのは理解できる。4歳まで常に一緒に生活してきた女が、実は誘拐犯だといわれて、すんなり受け入れることはできないだろう。刷り込み効果もあり、その後の生活がギクシャクするのは目に見えている。幼児期のトラウマが、その後の恵理菜の生活に変化を与えることになる。恵理菜の心境というのは理解できないが、辛い境遇というのは十分伝わってきた。

恵理菜が自分の父親と同じような男と不倫を続ける。恵理菜の情緒不安定さは、幼児期のトラウマだけではなく、その後、世間をにぎわせた誘拐事件の関係者として、様々な取材攻勢の末、すべての情報が恵理菜に伝わったというのがある。知らなくても良いことを知ってしまった恵理菜。幼い記憶をたよりに、誘拐犯と暮らした思い出の地を訪れることになる。陰鬱な状況の現在と、つかの間の幸せではあるが、誘拐犯と二人で過ごした日々。対比効果により、観衆には過去の思い出がすべてすばらしいもののように伝わってくる。

誘拐犯の一途な思いというのが、物語に強烈なインパクトを与えている。子どもと過ごすかけがえのない時間を大事にする誘拐犯。いつ幸せが壊れるかもしれない恐怖。危機的状況から抜け出したとしても、その先には新たな危機がまっている。いつか崩れ落ちる幸せだとはわかっていても、その先にある永遠の幸せを願わずにはいられない。子どもの純粋な表情と、単純に母親と離れ離れになることを悲しむその顔を見せられると、子を持つ親としては、心に響かないわけがない。

思わず誘拐犯の方に感情移入してしまうのは、子を持つ親ならば当たり前のことかもしれない。


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