2012.10.2 作者の不思議な世界観 【夜の国のクーパー】
評価:3
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■ヒトコト感想
作者の不思議な世界観が存分にはっきされている作品。ただ、猫目線の物語という不思議さを考えなければ、ごく普通の物語かもしれない。戦争に負けた国が、敵である鉄国の言いなりとなる。そこで猫たちは、自分たちの国の不遇な状況を嘆く。何かがおかしいというのは、最初から気付いていた。ただ、仕掛けがわかったからといって、物語に大きな影響があるわけではない。クーパーという巨大な杉の化け物の存在や、クーパーを退治するために集められる兵士たち。戦争に負けた国の人々が虐げられる現状や、猫のトムが助けを求めた人間など、世界観が入り混じり、意図的に混乱させるようにしているのだろう。戦争とはどういうことか、国を支配する者は何を考えるのか、猫目線ですべてが語られている。
■ストーリー
この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。
■感想
猫目線というのは、ある意味神の視点かもしれない。都合の良い神の視点だ。人間たちの行動をつぶさに観察したかと思うと、肝心要の部分は、猫が入り込めない密室のためわからないという流れになる。猫だけに、どんな場所でも神出鬼没のはずが、制限がある。鉄国の兵士たちの戦勝国としての行動と、負けた国の人間たちの負け犬的行動。すべてを猫は理解し、そして、人間たちの行動にもっともな感想をもつ。戦争で負けた国の人間たちが、どのような立場に追い込まれるのか。それを猫とネズミの関係に置き換えているのかもしれない。
人間たちを観察してきたトムに、ネズミたちの反撃が始まる。そこから、猫とネズミの交渉が始まるのだが、これがかなり特殊だ。ある意味、圧倒的に力が強い者たちが、力の弱い者たちへ向ける圧力と、弱い者たちがどのようにして対抗していくのかが描かれている。戦争に負けた国の交渉という部分にダブらせているのだが、その答えは最後にわかる。国を支配する者が権力を維持するためにどのような手段を用いるのか。テーマとしては、非常に壮大だが、それが猫目線で語られることにポイントがある。
ラストにはすべての仕組みがあばかれる。なぜ、クーパーという巨大な敵が存在したのか。クーパーを倒すために、次々に連れ出された兵士たちはどうなってしまったのか。作者らしく、なんてことない話を、複雑な構成と猫目線にすることで、奇妙な面白さを表現している。強烈なインパクトはないが、不思議な教訓話のような読後感がある。ちょっとした昔話的な印象を受け、最後に良い印象で終わるのは、作者の作品全般にいえることかもしれない。敗戦国の陰鬱な気持ちが、最後にすっきりとすべてが解決されたような、変なさわやかさに満ちている。
強烈なインパクトはないが、作者らしいさわやかな読後感のある作品だ。
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