夜の紙風船  


 2012.5.30   タイムマシンに乗った気分 【夜の紙風船】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者のエッセイ集はいくつか読んでいるので、新鮮さはない。しかし、内容については、いくつか驚かされる部分や、新鮮な部分はあった。作者が日常感じたことや、仕事のことを含め、小説家という職業がどのようなもので、どんな風にして創作活動を行っているのか。やはり驚きが強いのは、時代の流れだ。作者がこのエッセイを書いたのは、かなり昔なので、恐らく今三十代の人が読むと、自分が生まれる前のことか?と感じることだろう。戦中戦後生まれの作者が、小説家としてデビューしたのは四十代。となると、本作に描かれるエッセイで、過去の思い出などを語られると、まるでタイムマシンに乗った気分になる。

■ストーリー

あなたの脳ミソはいい運動をしていますか―。執筆のあとの仕事部屋。ホロ酔い加減で空想にふければ、心は風船になって夜空を飛翔するみたいだ。ジョーク、ブラック・ユーモア、ショート・ミステリーの名手がお伝えするアイデアの煮つめ方、あるいは脳ミソの使い方…。微笑、苦笑があふれる奇妙な味のオリジナル・エッセイ集。

■感想
作者はエッセイの中で、今の子供たちは生まれたときからテレビがある生活だ、なんてことを語っている。これはやはり今読むと衝撃的だ。今の時代、一家に一台というよりも一人一台ネット環境に接続されたなんらかの機器を持っているはずだ。それと比べると、生まれたときからテレビのある生活であれこれ言うというのが面白い。やはりいつの時代もそういった古い人の「今の若者は…」というのはつきることがないのだろう。あと何十年後かすると、自分も作者と同じように、「今の若者は…」と思っていることだろう。

作者が小説家として、どのように創作活動を行っているかが語られている。アイデア出しに一日。執筆に一日。アイデアも日に日に枯れていくらしい。アイデアが不足した部分は、年々上達していく技術でカバーするようだ。アイデアが枯渇したときにはどうするのか。そこには作者らしいアイデアを生み出す方式が書かれている。すべての人に参考になるわけではないが、なるほどなぁ、と思ってしまう。その他にも、小説家がいかに儲からない仕事かというのが、切実に語られている。

やはり昔の作家らしく、ワープロのたぐいはいっさい使わないようだ。なので、一日に書ける枚数が原稿用紙十枚に達しないのだろう。キーボードで書けば、かなりスピードアップできるはすが、そうしないのは、文明の利器にたよらないのではなく、長年つちかった習慣からだろう。アイデアが枯れはて、ボロボロになりながら、作家活動が続けられるのは、まぎれもなく作者の才能だ。本作では才能が早くに開花するタイプと大器晩成型のタイプについて語られている。若くして芥川賞を受賞し、その後、ぱったり名前を聞かなくなるよりは、作者のようなタイプの方が断然すばらしい。

作家という職業の、厳しい側面が見えた気がした。




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