夜は千の鈴を鳴らす  


 2012.12.12    シリーズの積み重ねを効果的に 【夜は千の鈴を鳴らす】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

吉敷シリーズの定番として、またまた時刻表トリックか?と思わせておいて…。今回もまずは列車の中で不審死が発生し、その死の原因を調査する吉敷。いつもどおり、容疑者と思わしき人物には、鉄壁のアリバイがある。時刻表とにらめっこしながら、どうにかしてトリックを暴きだそうとするのだが…。現在の事件の前に、過去の事件が大きな意味をもつことになる。吉敷がそれに気付き、過去の事件を捜査するのだが…。時刻表トリックが盛りだくさんだ。過去の事件と現在の事件がリンクしており、事件の全容が見えかけたころ、オチは意外な方向へと進んでいく。過去の事件はさておき、現在の事件は、ちょっと拍子抜けするようなオチだ。今までのシリーズを逆手にとったような作品だ。

■ストーリー

JR博多駅に到着した寝台特急〈あさかぜ1号〉の二人用個室から、女性の死体が発見された。彼女は鬼島総業の女社長・鬼島政子で、検死の結果、死因は心不全と判明。だが、前夜、政子が半狂乱になり口走った「列車を停めて、人が死ぬ!ナチが見える」という意味不明の言葉に、捜査一課の吉敷竹史は独自の捜査を開始する。本格推理の鬼才が時刻表を駆使した自信作。

■感想
吉敷シリーズといえば、時刻表トリックだ。今回も、寝台特急での不審死とくれば、間違いなく時刻表を駆使したアリバイ崩しになるだろうと予想できた。物語は、過去の事件へとさかのぼり、そこでどのような事件が起こり、結末はどうなったのか。過去の事件と現在の事件の繋がりが明らかになった瞬間、ひとつの方向性が見えてくる。被害者である政子が口走った「人が死ぬ、ナチが見える」という意味深な言葉は、読者の想像力を刺激する。序盤は吉敷がミスリードすることで、読者はいろいろなパターンを連想することだろう。

政子の不審死の容疑者である草間。草間の過去を探ることで、事件の繋がりが見えてくる。この段階で、草間犯人説というのは確定的になる。あとはどのようにして物理的に不可能な殺人を可能にするかがポイントとなる。過去の事件のトリックは、ある程度想像できた。死体を線路上に放置した理由というのも、早い段階で気付くことができた。ミステリーを読み慣れた人ならば、簡単に想像できるかもしれない。過去の事件が解決しても、現在の事件のトリックはまったく想像できなかった。

結果として、政子の死の原因というのは驚きのオチだ。今までの吉敷シリーズにはないパターンだ。時刻表の穴をついたトリックならば想定できるのだろうが、そうではない。確かに草間が仕組んだことに間違いはないのだが、犯罪として立証できるかは…。吉敷シリーズとしてはめずらしく、次々と重要人物が死んでいき、事件の真相は吉敷の想像でしかないという状況だ。今までのシリーズの積み重ねがあればこそ成立する物語だろう。突然本作を読んだとしたら、ミステリーとしての仕組みが弱いように感じるかもしれない。

吉敷シリーズを継続して読んでいれば、驚くだろう。




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