善き人のためのソナタ


 2011.5.18  しみじみとした後日談 【善き人のためのソナタ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
言論統制がしかれた東ドイツの物語。国家保安局のヴィースラー大尉が、冷酷非道で目的のためにはどんなことでもする国家の犬というイメージを植え付け、それが変わっていく様を描いているのが本作だ。堅物で何事においても融通がきかない男が、盗聴先の劇作家に、しだいに感化されていく。特殊な状況下で、言論の自由を奪われかねないという恐怖と、誰がどこで何を聞いているかわからない理不尽さ。この時代だからこそ成立したのだろうが、それにしてもすさまじい言論統制だ。この独特な雰囲気を味わいながら、ベルリンの壁が崩壊した後も描くというのがすばらしい。あのヴィースラー大尉は、秘密を隠し持っていたことをバレ、その後どうなったのか。後日談がしみじみとしている。

■ストーリー

84年、東ドイツの国家保安局のヴィースラー大尉は、劇作家・ドライマンとその恋人で舞台女優のクリスタが反体制的であるという証拠を掴むため監視を始めるが、次第に彼らの世界に魅入られ…。

■感想
細かな伏線と、異常な時代でありながら、一筋の光明が見え隠れする本作。盗聴のスペシャリストであるウィースラー大尉が、ドライマンの秘密を見つけ出したとき、普通ならばまっさきに上司へと報告し、ドライマンはそれなりの処罰を受けるはずだった。それが、ドライマンの考え方を四六時中盗聴していると、しだいに変わっていくヴィースラー。あの堅物で、どんな不正も見逃さないような男が変わっていく様は興味深い。さらには、レーニンが感動したという曲、つまり善き人のためのソナタを聞いて、決定的に変わっていく。

ドライマンがある秘密の計画を練るが、それらはすべてウィースラーの知ることとなる。国家的に大事件となるこの出来事に、ヴィースラーはある行動にでる。人はここまで変わるのかというのと、なぜこうも変わってしまったのか、作中の説明だけでは不足しているようだが、いつのまにか受け入れてしまう。ハラハラドキドキのサスペンスというよりも、盗聴する側される側と、指示する上司という三者で、これほど思惑が違うパターンもめずらしい。この時代だからこそ、ありえたことなのだろうか。

本作がすばらしいのは、ベルリンの壁が崩壊し、自由になった社会の中で、その後が描かれているということだ。国家に反逆したヴィースラーはどうなったのか。誰かの助けによって今があると知ったドライマンが調査し、国家保安局で誰が自分を助けてくれたかを知る。さらには大臣までも登場し、当時の真実を語る。後日談的流れが、不自然ではなく物語のトーンにあっている。決してうきうきと楽しくなるようなハッピーエンドではないが、後味は良い。

物語のトーンとはうらはらに、ヴィースラーがコミカルに見えてしまう。



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