2012.9.26 主役が事件をミスリード 【Yの構図】
評価:3
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■ヒトコト感想
吉敷シリーズといえば、複雑な時刻表トリックの解明により、アリバイ崩しがメインのシリーズだ。本作も上越新幹線と東北新幹線で同時に上野駅で服毒自殺が発生する。その容疑者と思わしき人物は、早いうちに浮かび上がり、あとはどのようにしてアリバイを崩すかに物語の重点がおかれているように思われたが…。早い段階で登場する容疑者は、犯人の可能性が低いというセオリーどおり、別のオチがまっている。いじめ問題が物語のテーマとしてあり、その結果、異常な状況へと物語は流れていく。いじめ自殺した少年の幽霊と思わしき人物の存在や、複雑な家庭環境など、何か単純な時刻表トリックではないという雰囲気は最初から漂っていた。そして、そのとおり、意外なオチとなった。
■ストーリー
昭和61年8月18日、上野駅の隣接したホームに前後して到着した上越、東北新幹線の中から女と男の服毒死体が発見された。2つの死体の側にはコスモスと桔梗の花が…。自殺か?他殺か?警視庁捜査一課の吉敷竹史は、不可解な事件の謎を追って盛岡へ。
■感想
上野駅で上越、東北新幹線の中から2体の服毒自殺が発見された。そして、その二人は親密な関係にあった。吉敷は、まずは2つの新幹線での殺人を調査し、時刻表トリックにたどりつく。もっともらしい容疑者の存在と、玄人ごのみしそうな複雑な時刻表トリック。ただ、その調査が早い段階で行われるため、オチは別の要素が絡んでくるというのは、容易に想像できた。二人に強烈な恨みを持つ人物。それは子どもをいじめにより自殺に追い込まれた両親たちだ。ここから一気にいじめ問題へと物語は傾いていく。
時代的にいじめ問題がクローズアップされた時期なのだろう。教師の対応はフィクションとわかっていても、むかつきが抑えられない。対外的には良い教師という顔をことさら主張することに、物語として重要な何かがあるように匂わせている。いじめ問題として、単純にいじめた子どもだけが悪いというのではないだろう。作中でも、様々な関係者が独自の理論を展開している。本作に登場する中学生たちは、ある種、当時では異色な存在かもしれない。ただ、今読むと、なんとなくだが納得できてしまうから恐ろしい。
いじめ問題と、その他複雑な家庭の事情。ここまで複雑さを極めると、誰が犯人かということより、どのようなオチが一番驚くかだけを突き詰めているような気がした。おそらくどのようなオチにも強引にもっていけたのだろうが、いじめ問題をメインのオチとしている。そして、理解できない子どもたちという図式もしっかりと残している。昭和60年代の物語としては、かなり斬新かもしれないが、今読むと、割りと想像がついてしまうから恐ろしい。それだけ、子どもたちの異質さというのは、進化しているのだろう。
吉敷シリーズとして、中盤までの吉敷は、ただのピエロでしかない。
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