町長選挙  


 2011.5.7  あの人はこんなことを考えていた 【町長選挙】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

有名人をパロディとした作品が強烈に面白い。本人からクレームがこないかと心配になるほど、誰のことを描いているかまるわかりだ。「オーナー」ではナベツネをパロディとし、「アンポンマン」ではホリエモンを面白おかしく描く。作者の想像の範囲内だろうが、抱える悩みというのが無性に面白い。本人が読んだら激怒しそうな内容だが、読み終わると心がほんわかとしてしまう。今までのシリーズと比べると、実在の人物を思い浮かべることができるので、面白さは段違いだ。「町長選挙」もそれなりに面白いのだが、上記二つにはかなわない。有名人には有名人なりの辛さがある。精神的な問題が伊良部という変人を通して、本作で面白い物語に昇華されている。

■ストーリー

町営の診療所しかない都下の離れ小島に赴任することになった、トンデモ精神科医の伊良部。そこは住民の勢力を二分する町長選挙の真っ最中で、なんとか伊良部を自陣営に取り込もうとする住民たちの攻勢に、さすがの伊良部も圧倒されて…なんと引きこもりに!?

■感想
シリーズの中では一番かもしれない。もはや伊良部のキャラクターはそこに存在するだけで、ほとんど意味はないのだろう。「オーナー」ではあのナベツネの強烈なキャラクターであっても、伊良部のマイペースさにはかなわない。巨大な権力を持った者の悩みを深刻に描きつつ、伊良部が茶化すことで、面白さを引き出している。あきらかに実在の出来事と思わしきエピソードがあり、そこで悩む様を作者の想像で描いているのだろうが、やけに的確に思えてしまう。あのナベツネが、もしかしたらこんな悩みを抱えていたのかもしれない。隠居した原因も…。なんてことを思ってしまう。

ホリエモンをパロディとした「アンポンマン」も秀逸だ。これは完全に作者が脚色しているのだろうが、キャラクターや性格はそのままホリエモンのように思えた。若くして成功を手にし、合理化を進めていった結果、どのようなことが起こっていたのか。伊良部がいつもどおり空気を読まない発言をすることで、患者に対して変な影響を与えてしまう。かなり飛躍した内容だが、キャラクターが実在の人物をパロディとしているので、しっかりと思い描くことができ、臨場感が高まっている。最初の「オーナー」と「アンポンマン」は特殊なだけに、面白さが突き抜けている。

そのほかには「町長選挙」は田舎の選挙戦をまるで4年に一度のオリンピックのごとくドラマチックに描いている。やっていることはめちゃくちゃで、常識では考えられないことだが、現実にありそうだから恐ろしい。そして、何でもありな選挙戦のさなかに、伊良部というプルトニウムのような人物が入り込むことで、周りに放射線を撒き散らすように、変な空気を蔓延させている。結局は、狂言回し役である役所の宮崎が、それらすべての影響を受ける形だが、特定の人物の悩みを解決するというより、町の伝統を面白おかしく伝えているといった感じだろうか。

シリーズは回を重ねるごとに良くなっているような気がした。




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