つめたいよるに  


 2011.12.3  サラリとした読後感 【つめたいよるに】

                      評価:3
■ヒトコト感想
サラリと読める短編集。ひとつがかなり短いので、スラスラと読み進めることができる。不思議な出来事や、ちょっとしんみりする出来事など、特にテーマは決まっていないようだが、全体的にほんわかとした印象を残す作品が多い。短いだけに、読み終わると頭の中からスルリと抜け落ちてしまう短編もあるが、中には印象深いものもある。食事管理に厳しい母親がいない間に、子どもたちだけで思う存分晩餐を楽しむ。特別なことではないが、クスリと笑えてくる。その他にも、他人の家庭にばかり目がいき、羨ましがる小学生の作文など、皮肉さがにじみ出ていて良い。最初に先生のコメントがあるのが、なんともお洒落だ。短いだけに楽に読め、ちょっとした気分転換には良いのかもしれない。

■ストーリー

デュークが死んだ。わたしのデュークが死んでしまった―。たまご料理と梨と落語が好きで、キスのうまい犬のデュークが死んだ翌日乗った電車で、わたしはハンサムな男の子に巡り合った…。出会いと別れの不思議な一日を綴った「デューク」。コンビニでバイトする大学生のクリスマスイブを描いた「とくべつな早朝」。デビュー作「桃子」を含む珠玉の21編を収録した待望の短編集。

■感想
21もの作品の中で特に印象に残っているのは「デューク」だ。ちょっと不思議で奇妙な話だが、心が温かくなる。鶴の恩返し的な流れなのかもしれないが、現代的でどこにでもいる女の子が主人公というのがなんだか安心できた。運命的な出会いと思いきや、そこには秘密が…。ファンタジーあふれる展開だが、オチとしてよけいな書き込みがないのがいい。その後は勝手に予想してくださいねという感じで、それぞれ読者が思うように想像すべきだろう。

「とくべつな早朝」は時期的に、もうすぐクリスマスなので、妙にリアルに感じてしまった。深夜のコンビニの独特な雰囲気と、クリスマスという特別な夜。いつもの常連はさておき、この時ばかりと、はしゃぐカップルを見るのはどんな思いなのか。ふらりと電話して、すぐにやってくるのではなく、始発でやってきたというところが、なんだか楽しくなった。作中には描かれていないが、夜中じゅうあれこれ考え、一睡もせずに始発でコンビニに向かう女の子というのは、ほほえましい。

「ねぎをきざむ」では、理由のないイライラというのは覚えがある。ただ、その解消方法としてひたすらねぎをきざむというのは、映像が頭に思い浮かび奇妙な感覚となる。何かに没頭するというのはあるが、それがひたすらねぎをきざむというのは特殊だ。嫌なことや、辛いことを、単純作業をしている間に、モヤモヤと思い出したりはしないのだろうか。独特な習慣でもあり、自分ならば絶対にダメだろうなぁという、違った意味で印象に残る作品だ。

それぞれの短編は非常に短い。通勤通学時に読むのに適している。




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