月と蟹 


 2012.4.4   子どもらしい残酷さ 【月と蟹】  HOME

                     

評価:3
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■ヒトコト感想

子供たちの残虐性と、親に対する子の思いがヒシヒシと伝わってくる物語だ。ヤドカリをヤドカミ様として崇め、願いをかなえてもらおうとする。そこには、環境になじめず心の奥底にたまったストレスを、どうやって解消してよいのかわからない子供の苦悩が描かれている。そして、子供らしい残酷さをみせたかと思うと、親に対して常識的な考えとは別の、反抗的な気持ちが生まれてくる。本作の主人公である子供たちの心境には、ものすごく共感できた。読んでいるあいだ、思わず子供時代に戻った気分になっていた。もし、自分の母親が知らない男と一緒に車に乗っていたとしたら…。クラスになじめず、ヤドカリをもて遊ぶ儀式をくり返す子供たち。残酷でもあり、悲しさのある物語だ。

■ストーリー

「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。

■感想
作者らしいミステリーを期待していると、大きく裏切られることだろう。大どんでん返しや、ミステリアスな何かがあるわけではない。子供たちの残酷さと、やりきれない思いを何かにぶつけるしかない子供の苦悩というのが伝わってくる。なんでも願いを叶えてくれる「ヤドカミ様」。それが、本当に神の力だとは決して思わない子供ではあるが、自分の願いが叶うことに、かすかな快感を覚えはじめる。本作に登場する子供たちにのしかかるストレスというのは相当なものだ。物語全体をとおして、子供らしいワイワイとした雰囲気はない。そこには大人顔負けのストレス社会があるだけだ。

父親を亡くし、母親と祖父と暮らす少年。クラスになじめず、軽いイジメのようなものまではじまる。少年が感じる悩みは複雑だ。母親が知らない男の車に乗り、夜遅く帰ってくることや、見知らぬ差出人からの自分を中傷する手紙など、楽しい学校生活とはとうてい思えない。そんな少年が、仲間の少年と共に始めた残酷な儀式。ヤドカリをライターの火であぶり、貝からでたところを捕まえ、願うという儀式だ。作者はたまにサラリと残酷な描写をする。これが子供らしいといえばらしいのだが、ストレスの溜まった子供たちの、変なストレス解消のように思えてしまった。

大人と子供のハザマにいる少年。大人びた考え方をする鳴海という同級生の女の子と共に、少年の心の葛藤が響いてくる。母親が男と付き合うことに対して、表面上は祝福しなければならない。しかし、心の奥底では…。本音と建前ではないが、少年の心の苦悩というのがものすごく伝わってくる。自分がまるで小学生に戻ったように、少年と同じ怒り、苦しみ、そして悲しい気持ちがこみ上げてきた。ミステリー的な面白さは皆無ではあるが、ここまで少年の気持ちを詳細に描き、なおかつ共感させるのはすごい。

残酷さの中にある、言いようのない悲しさが心に響いてくる。



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