月の恋人  


 2011.12.14  月9らしいシンプルさ 【月の恋人】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ドラマの原作。といっても、原作ありきのドラマではなく、ドラマの設定ありきで原作を書いたらしい。確かに作者らしくなく、いかにも月9ドラマにありそうなキャラ設定だ。こんなキャラ設定であっても、作者の色はでている。蓮介がくだらないことにこだわったり、キャラクターたちが各々、メインのストーリーとは関係ない部分でちょっとした変な部分があったり、作者の作品だと思わせる部分はある。ただ、全体的に制約があるのか、物語はありきたりな恋愛小説風であり、物語の先もわりと予想通りに動いていく。ドラマがどの程度流行ったのか知らないが、作者のファンからすると、らしくないと感じてしまうだろう。新たな一面というよりも、ありきたりという印象しかない。

■ストーリー

冷徹にビジネスを成功させる青年社長・葉月蓮介が、夜の上海で巡り合った女。ありえない二人の物語は、美貌の中国人モデルや、部下の社員らを巻き込み予測不能の展開に…。

■感想
本作を読みながら、キムタクや篠原涼子を頭の中に思い浮かべてしまった。ドラマは見ていないが、その辺の配役はなんとなくだが頭に入っていた。蓮介はいかにもキムタクが演技しそうなキャラだ。その他にもドラマとしてはごく普通の映像が思い浮かぶ。作者がこんな作品を書くことにかなり驚いたのだが、いろいろと細かい制約があったのだろう。作者にしては新しいが、小説としては普通だ。悪くもないし、特別良いとも感じなかった。作者の実体験のエピソードがあちこちにちりばめられており、そのあたりはファンは楽しめるだろう。

冷徹な社長である蓮介、中国人モデル。そして、派遣社員の女。設定や全体の雰囲気から感じるのは、広告代理店やテレビ局側の様々な思惑が絡んでいるのだなぁということだ。おそらく作者がこのキャラクターで物語を作ったとしたら、もっと違った方向へ流れていただろう。確かに山あり谷あり、苦悩あり喜びありと物語としての面白さはある。ただ、その感覚は頭の中を空っぽにし、ドラマをぼんやりと見て楽しむような感覚に近いかもしれない。小説としての面白さと直結するかというと、微妙だ。

物語としては悪くない。独裁的な社長がいろいろな苦悩を重ね、裏切りや友情を感じながら、一つの結論へいたる。苦悩するキムタクの姿はさぞ絵になることだろう。冷徹な男が、人情味あふれる人たちに囲まれ、心を溶かしていく。ハッピーエンドとしてはこれ以上ないほど理想的だ。それだけに、物足りなさがある。作者のブラックな魅力や、やりすぎと思えるほどのどんでん返しなども当然ない。ストレートに真っ向勝負。ドラマを楽しめた人であれば、十分楽しめることだろう。

作者の作品の中では異色かもしれない。




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