図書館危機  


 2012.8.30   表現の自由を守る! 【図書館危機】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

このシリーズの肝である、郁と堂上の関係に明確な変化が垣間見えた作品。郁が王子様の正体を知り、その後どうなるのか。予想外に体が痒くなる展開になりつつある。まさか、郁があっさりと自分の恋愛について自覚するとは思わなかった。淡い恋の展開だけでなく、表現の自由を争う流れが秀逸だ。このあたりは作者の実体験が大きいのだろう。そして、ラストのエピソードでは壮大な駆け引きと、何か裏がありそうな情報戦をくりひろげる。シリーズとして一番あぶらの乗ったころあいであり、キャラクターたちも新たな要素が見え隠れし、目が離せない物語になっている。今までのシリーズと比べると、軍隊的な部分は少ない。それを補って有り余るほどの激しい戦いの描写と、図書館の未来が語られている。

■ストーリー

思いもよらぬ形で憧れの“王子様”の正体を知ってしまった郁は完全にぎこちない態度。そんな中、ある人気俳優のインタビューが、図書隊そして世間を巻き込む大問題に発展。加えて、地方の美術展で最優秀作品となった“自由”をテーマにした絵画が検閲・没収の危機に。郁の所属する特殊部隊も警護作戦に参加することになったが!?表現の自由をめぐる攻防がますますヒートアップ、ついでも恋も…

■感想
郁の憧れの王子様の正体が知れたのは前作。そこから、二人の関係がどうなるのか気になるところだったが、郁がひとり恋にもだえる展開となっている。郁のイメージとして、男顔負けにさっぱりとした性格かと思いきや、ひとりひっそりと恋に悩む乙女となっている。意外な展開ではあるが、シリーズの変化が伺える場面かもしれない。そこから、おとり捜査の任務で、磨けば光る女だと読者に印象づけ、堂上とのコンビに恋愛の香りを漂わせている。相手がどう思っているのかわからないまま、微妙な恋愛感を描かせると、作者の右にでるものはいないだろう。

本作のメインは間違いなく表現の自由に関するエピソードだろう。”床屋”が規制されるべき単語だとは知らなかったし、その必要性も感じなかった。作者はおそらく実体験を元に、伝えたいことがあったのだろう。巻末のあとがきに、本作のアニメ化の際に、自主規制された部分があったが、あえてそれを受け入れることで、規制された事実を表現したいというような言葉があった。読む方からすると、あまり意識はしないが、作り手からすると、譲れない部分があるのだろう。そんな熱い思いを本作から感じずにはいられない。

強烈なインパクトがあるのは、茨城図書館の攻防戦だ。ここでも暗躍する手塚兄。激しい情報戦と、芝崎が何かしらの鍵を握っているとにおわせる展開。単純なドンパチによる表現よりも、裏の駆け引きが熱い物語は、読んでいて自然に熱が入る。稲峰司令官の覚悟と、今後の物語の行く末は、はっきりとした決着はつかないのだろうが、手塚兄の陰謀に何かしら結論がでるものと予想している。最後の大ボスが手塚兄だとして、どのような展開になるのか、ラストに向けた助走段階としては、これ以上ないほど魅力的な作品となっている。

恋愛と図書館内部の駆け引きのバランスが絶妙だ。




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