2012.5.23 作者というフィルターを通して 【とるにたらないものもの】
評価:3
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■ヒトコト感想
作者が思う、とるにたらないものたちへの思いをつづる。輪ゴムやレモンしぼり器など、普通の人はなにも思わないだろう。そこに何かしら感じるものがあるのは、作者の感受性による部分が大きい。とるにたらないもの、というタイトルどおり、他の人にはどうでも良いことかもしれない。ただ、作者というフィルターを通して読むと、それがさも重要なモノのように思えてくるから不思議だ。本作を読むことで、普段なにげなく使っているものが、もしかしたら急に大事なもののように思えてくるかもしれない。鉛筆をカッターで削るなんてことは、このエッセイを読むまで忘れていた。なんだか無性に鉛筆をカッターで削りたくなってきた。
■ストーリー
とるにたらないけれど、欠かせないもの。気になるもの。愛おしいもの。忘れられないもの―。輪ゴム、レモンしぼり器、お風呂、子守歌、フレンチトースト、大笑い…etc.。そんな有形無形の身のまわりのもの60について、やわらかく、簡潔な言葉でつづられている。行間にひそむ想い、記憶。漂うユーモア。著者の日常と深層がほのみえる、たのしく、味わい深いエッセイ集。
■感想
作者が、とるにたらないものとしてあげたものは、確かに普通に生活していれば気にならないものばかりだ。そこに目をつけるのが、作者のすごいところであり、普通とは違うところだ。輪ゴムをテーマにしたエッセイを書けと言われて、作者の雰囲気をだせる人はなかなかいないだろう。たかが輪ゴム、されど輪ゴムだ。とるにたらないもののエピソードは、どこか気持ちがほっこりと暖かくなるようなものばかりで、暗く悲しいものではない。日常生活ではほとんど脚光を浴びないモノたちに光を当てる本作は、忘れていた何かを思い出させてくれそうな気がした。
作者と同じように、モノに対して共感できれば、これほど楽しいものはないだろう。自分で言えば、フレンチトーストが近いかもしれない。日曜日などのスペシャルな日の朝食に登場するフレンチトースト。普段では絶対に食べないモノなので、心がウキウキしてくる。それが、大人になり、なんでもない日にフレンチトーストが登場してくると、理由もなく心がウキウキしてしまう。なんて単純だと思うかもしれないが、とるにたらないものであればあるほど、そこには強烈なパワーがあるような気がした。
良い思い出ばかりでなく、悪い思い出を連想させるものもある。作者はできるだけやんわりと、ソフトな雰囲気でエッセイを描いているので、そこまで伝わってはこないが、中には強烈なものもある。作者の日常を、ある場面だけ突然切り取ったようなエッセイなので、その前後関係がわからなくても理解できるよう、表面だけがサラリと描かれている。そのため心の奥底に深く突き刺さることはないが、春の爽やかなそよ風のように、サラリと心地良く通り過ぎていく。
作者とモノの感じ方が一致すると、妙に楽しくなる。
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