東京ホテル物語  


 2012.7.2   オチに期待するべからず 【東京ホテル物語】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ホテルを舞台とした短編集。作者の短編となると、あっと驚くオチを期待してしまう。特別なオチがないように感じる物語が多かった。ホテルでの日常ということで、かなり制限された結果、こうなったのだろう。男と女が出会い、意外な結末が訪れるというのはわかるが、意外さがその他の作者の作品と比べると弱く感じた。使用済みのシャワー・キャップから、別の女の存在を感じとるなんてことはあるだろう。ただ、それだけがオチとなると弱い。どうしても期待してしまうのは、多少ブラックに傾いたとしても、強烈なインパクトのある作品だ。オチとは別に、人間性というか、人への思いやりという部分で印象的な作品はある。

■ストーリー

東京のシティ・ホテル。ファッション感覚で選ばれる都市の非日常的空間。今日も男と女が出逢い、そして意外な結末が訪れる。客室、フロント、ロビー、レストラン、ティー・ルーム、ドラッグ・ストア…、ホテルのそれぞれの場所で進行する人生のドラマを、絶妙の切口で語る、愛の連作12話。

■感想
最も印象深いのは「雨」だ。ホテルのタクシーにまつわる話で、人の思いやりの深さを感じてしまう。ホテルの前では、客待ちのタクシーが順番に並んでいる。にもかかわらず、ホテルに客を降ろしたタクシーにそのまま乗ろうとした男は、ベルボーイに注意される。本作の男のような考え方をする人はどの程度いるのだろうか。客待ちタクシーが長い時間、客を得るために並んで待つ。そのことを考えたとき、自然にでてくる答えなのだろうか。何も考えずタクシーを使っていた自分は、思わず心に響いてしまった。

ホテルといっても舞台は様々だ。ホテル内にあるレストランであれば、特別ホテルという感じはない。フロントやロビーはまだしも、ドラッグ・ストアなどになると、どうなのだろうか…。物語の導入部は毎回かなり興味深いスタートとなっている。そこから、どのような変化が待っているのか。期待はどんどんと大きくなるが、その期待に答えられているのかは微妙かもしれない。「え?これで終わり?」と思う短編がいくつもあった。

男と女の機微を描いた作品の方が、オチに重点をおいている感じがないので、良いのかもしれない。必ず何か強烈なオチを求めるというのはよくないことなのだろう。男女の関係では、オチがなくとも、そのキャラクターの気持ちを読み取ることで、面白さがわいてくる。感情移入するというよりも、テレビドラマを見ているような気持ちで読むのが良いのかもしれない。非日常の、まったく自分とは関係のない出来事として、客観的に読むというのも、ひとつの手かもしれない。

常に強烈なオチを求めるのはよくない。




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