チッチと子  


 2012.5.8   直木賞作家の真実 【チッチと子】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

まるで作者の実体験かというほど、小説家の生活をリアルに感じてしまう。本作は、小学生の子供をもつ親という面と、妻に先立たれ、四十の独身男という面と、売れない小説家という面がある。どれもリアリティがあるのだが、売れない小説家の部分が一番興味深い。おそらくは作者の実体験が含まれているのだろう。最初に直木賞にノミネートされ落選し、その後、もう一度直木賞にノミネートされる。世間の騒ぎ方や、周りの雰囲気など、直木賞作家にしかわからない部分がある。本作では、そこに小学生の子をもつ親としての顔もある。本来ならこの親と子の関係というのがメインになるのかもしれないが、小説家としての生活の方がインパクトが大きいために、どうしてもそちらの印象が強く残っている。

■ストーリー

つぎに「くる」といわれ続けて10年の万年初版作家・青田耕平は小学生の息子と二人暮らし。将来への不安は募るばかりだが、ついに直木賞の候補に選ばれる。周囲の変化に戸惑う耕平。だが一方で3年前に不可思議な交通事故で死んだ妻を忘れることができない。「あれはほんとうに事故だったのだろうか」。寂しさから逃れられない父と子がたどり着いた妻の死の真相とは。変わりゆく親子の変わらない愛情を描く、感涙の家族小説。

■感想
作者自身、直木賞をとっているので、本作を描けるのだろう。いち出版社が主催する文学賞が、とてつもない影響力をもっているので、自然と周りの反応も違ってくる。直木賞にノミネートされたとしても、1回目は必ず落選するなど、世間一般でまことしやかに噂されていることを、作者は惜しげもなく文章にしている。受賞すると生涯年収が2億円も違ってくるなど、作家にしかわからない部分だろう。同期のライバル作家との関係など、小説家の裏側を覗けるようで非常に興味深い。

主役である耕平は交通事故で妻を亡くし、小学生の息子と二人暮らしとなる。将来の不安や、親子関係など、男手ひとつで息子を育てることの大変さが描かれている。さらには、小説家という職業が、世間の認識とはかけ離れた収入だというのがよくわかる。印税でウハウハだと思うのは、何も知らない一般人だけ。売れない小説家としては、いつ仕事がなくなる恐怖に追われながら作品を書き続けなければならないのだろう。今や売れっ子作家となった作者でさえも、本作のような気分になったのだろうか。安定した収入とは程遠い職業の辛さがリアルに描かれている。

妻を亡くし独身となった耕平には、それなりに女関係でチャンスがある。このあたりは、作者の実体験がないからなのか、かなりあっさりと描かれている。再婚や恋愛の話よりも、親子関係や、直木賞がらみに力を入れたかったのだろうか。本作を読むと、小説家という仕事は大変なのだなぁとしか思えない。作家先生だからといって、のべつまくなしモテるわけでもなく、大金持ちになれるわけでもない。たとえ直木賞をとったとしても、その人気は一時的なものかもしれない。小説家という職業の真実を見た気がした。

単純な親子モノではない、作家という職業の真実が垣間見える作品だ。




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