天に昇った男  


 2013.3.21    悲しみに満ちた男の人生 【天に昇った男】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

死刑執行された春男は、奇跡的に生き延びる。死刑囚が、生きるために首の筋肉を鍛え、体重を減らし絞首刑に耐えようとする。物語にミステリーの要素は少ない。春男が奇跡的に生き残り、自分の生い立ちを回想し、思い出の星里の街へ帰るという物語だ。ミステリアスな要素は少ないが、春男の人生を読んでいると、その波乱万丈で困難に満ちた人生に興味がわいてくる。

多少の不運と、めぐりあわせから、前科もちとなり、その後、愛した女を守るために罪をかぶる。簡単に言ってしまえばそれだけの話だが、春男の必死に生きる姿というのは、読む者に何かを訴えかける力がある。

■ストーリー

昔、天に昇ろうとした男の伝説がある九州・星里の街。昭和五十一年の昇天祭りの日、祭りの櫓に三人の男女の死体が吊るされた。犯人とされた門脇春男は、十七年の収監ののち、死刑を執行される。ところが奇跡が起こり、彼は生き延び、釈放された。そして昇天祭りの夜、彼自身が伝説のとおりに天に昇ったが…。

■感想
天に昇ろうとした男の伝説がある星里の街。男の伝説はほんのつけたしでしかない。殺人事件を起こし、死刑執行された春男の人生が本作のメインだ。春男が無実の罪で死刑執行される。どんなことをしてでも生き残ろうとした春男は、体を鍛え首つりに耐えようとする。

そして、奇跡的に…。春男は、生まれてから事件を起こすまでを回想し、なぜそうなったかを考える。そして…。春男の壮絶な人生は、読んでいてページをめくる手を止められない。単純な話なのだが、差別や理不尽なあつかいなど、苦難に満ちた人生の壮絶さが伝わってくる。

春男には気になる女性がいた。それが知恵遅れの富江という女だ。お互いはみ出し者として二人が寄り添うのは必然だろう。年齢差など関係なく、二人は親密になる。春男の回想の中で登場する富江は、純真無垢だ。が、春男が現実として街へ戻り、幸せな生活を富江と過ごしたあとの状況というのは、なんだか悲しくなる。

ひとときの幸せが春男の人生のピークなのだろう。奇跡的に生き残り、すべてを犠牲にして守ってきたものが崩壊する瞬間は、昇天祭りで天に昇るのと同じ心境なのだろうか。

ラストですべてのからくりが明らかとなる。なんとなくだが、何十年ぶりに会う富江が、昔と変わらない容姿をしているあたりで、怪しさを感じた。ただ、濃密に描かれる春男の人生を読んでいると、それら細かいことは関係なくなってくる。

人は死ぬ前に今までの人生を走馬灯のように思い出すというが、まさに春男はその心境だったのだろう。すべて読み終わると、無性に悲しくなる。春男の人生とはいったい何だったのか。考えずにはいられない。

ミステリー要素は少ないが、春男の壮絶な人生を読んでいると、思わず感情移入してしまう。




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