天国からの銃弾  


 2013.8.13     自由の女神の目が光る 【天国からの銃弾】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

まったくテイストの違う3つの短編。それぞれに独特の雰囲気がある。「ドアX」などは、精神に異常をきたした女の妄想物語かと思いきや、最後にはしっかりとハートフルな展開につながっている。表題作である「天国からの銃弾」の謎に満ちた展開や、目的のわからない事象をツラツラと示されると、妙に不安になる。

シリーズものではない、短編としての瞬発力に満ちている。キャラクターの魅力に頼らない、謎と、謎にいたるまでの過程で読者をひきつける力がある。作者の長編作品が好きな人ならば、間違いなく楽しめるだろう。シリーズものという足かせがないだけに、思う存分作者の好きなモノを描いているような気がした。

■ストーリー

もと消防署だった建物を購入した男は、施設の一部として残った「見張り塔」から、毎日写真を撮りつづけた。聳え立つ富士を背景に、ソープランドの屋上に立つ“自由の女神像”。ある日、その女神の目が異様に赤く光る瞬間があることに気づいたとき、男の平穏な日常を襲う衝撃的な事件が…。

■感想
「ドアX」は、妄想女の悲しい物語かと思いきや…。かけだし女優のマキ子は、占い師に「X」のドアの中にあなたの願をかなえる人物がいると言われて信じるのだが…。序盤はマキ子がどれほど美しい女優かが語られている。が、それは過去のマキ子の姿で、現在のマキ子はすでに老人だった。

この手の妄想物語というのは、悲しい結末がつきものだ。本作も、現実を直視できないマキ子の悲しみで終わるのかと思いきや、最後には、まさにX型のドアに救われることになる。妄想から抜け出し、幸せになるという珍しいパターンだ。

「首都高速の亡霊」は、それぞれの勘違いから、死体が移動するというミステリーだ。ある平凡な女は、ベランダから鉢を落としてしまう。下をのぞくと、そこにはうつぶせに倒れた男がいた…。平凡な女の視点と企業の重役の視点がある。平凡な女の視点が先に描かれていることで、重役の視点に奇妙な面白さが付きまとう。

男が経験したミステリーは、すべて女の仕業だった。ただ、女の方は別の目的のために行動していた。ミステリーの仕掛けとはこんな感じなのだろう。ただ、今回は、先に種明かしをしたことで、右往左往する男の哀れさを楽しむべき作品となった。

「天国からの銃弾」は、まさに誰が何のために?という正体のわからない恐ろしさがある。定年を迎えた男は、毎日決まった時間に写真を撮る。すると、そこに写り込む自由の女神のレプリカの目が光っていることに気づいたのだが…。

写真を手掛かりに、本来なら光るはずのない、自由の女神の目が光る理由を探る。そして、秘密を解き明かしたはずの息子の死。このあたりで、何か大きな組織や、恐ろしい陰謀を感じてしまう。目的がまったく予想できないと、変な恐ろしさがある。自分の想像力を超えてくる出来事というのは、頭の中で処理できないのだろう。本作の謎はそんなたぐいだ。

個性豊かな短編集。作者のファンならば、間違いなくはまるだろう。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp