黄昏の囁き  


 2011.7.30  記憶が重要な鍵となる 【黄昏の囁き】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

囁きシリーズ三部作の最後をかざる本作。過去の記憶がテーマとなっているシリーズだけに、本作も記憶が重要な位置をしめている。ミステリーとしてはごく普通で、特別な趣向をこらしているわけではない。過去の記憶の、ほんの些細な勘違いが物語を複雑にしている。他の囁きシリーズに比べると、まっとうで当たり前の世界を描いているので、入り込みやすいだろう。ただ、独特な世界観ではないので、なにかしらインパクトのある謎がなければ印象に残らない。探偵役として登場する元予備校講師の占部も、なんとか個性をだそうとしているが、イマイチだ。わかりやすく、読みやすいが、その反面、特徴がないので、その他大勢のミステリーとして埋もれてしまいかねない。

■ストーリー

兄急死の報に帰郷した医学生翔二は、元予備校講師占部の協力で、“事故”の真相を追い始めた。「ね、遊んでよ」謎の“囁き”に異常に怯える兄の幼馴染みたち。やがて一人また一人と殺人鬼の魔の手が伸びるなか、彼の脳裏に幼き日の恐るべき記憶が甦る。

■感想
過去の囁きシリーズと比べると、ごく普通の日常が舞台なので入り込みやすい。今までは排他的な女学園だったり、美しい双子の兄弟がいる怪しげな洋館だったり、いかにもな雰囲気が本作にはない。そのかわり、日常の中で発生するごく普通の事件の中に、怪しげな秘密があるのではないかという奇妙さはある。わりとオーソドックスで、主人公が困ったときには、補佐役の頼りがいのあるお兄さん的キャラも登場してくる。記憶をたよりに事件の真相を探っていくという、よくあるパターンなので、安心して読むことができる。

オーソドックスで定番的なミステリーなので、印象に残りづらい。ほんの些細な記憶違いが、物語に大きな驚きを与える要素なのだが、インパクトがあるとしたら、そこくらいかもしれない。元予備校講師の占部と協力し事件の真相を探ろうとする。記憶をたよりに、何者かの復讐をにおわせながら、読者に犯人を想像させる。事件が解決へ向かったとしても、そこで大きな驚きがあるわけではない。「ああ、そうなのか」という程度の軽い驚きだ。ミステリーとしての大どんでん返しを期待すべきではない。

囁きシリーズの締めとして本作があるのだろうが、どうしても館シリーズと比較してしまう。そうなると、最後のインパクトの弱さから、相対的に、それなりの評価となってしまう。期待するものが違うのかもしれない。本作はオーソドックスなミステリーとしての面白さは十分に持ち合わせている。読みやすく、サクサク進むストーリーも良い。ただ、当たり前の結末というのは、物足りなく感じてしまう。作者だからこそ、ある程度高いハードルを用意して読んでしまうのだろうが…。

オーソドックスなミステリーが好きな人には、館シリーズよりも合うかもしれない。




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