他人同士  


 2013.4.27     雰囲気のある短編 【他人同士】

                      評価:3
阿刀田高おすすめランキング

■ヒトコト感想

印象深い短編はいくつかある。仕掛けはシンプルで、単純なのだが、すっきりとした読後感の中になんとも言えない余韻が残る。ミステリーの定番的流れの作品もあれば、作者の特異なパターンもある。数多くの作品を発表してきた作者だけに、同じような印象を残す作品となるのは仕方がない。

ネタ的にかぶるものもある。それでも、ディテールの違いから、違った雰囲気を生み出している。「禁漁区」などは、タイトルによって物語の面白さを生み出している。このタイトルでなければ、なんてことない男の話で終わってしまう。「手袋とスカーフ」も良くあるパターンなのだが、オチに至るまでの巧妙さで他の作品と差別化をはかっている。

■ストーリー

心から愛せる女性に初めて巡り合い、幸運にもその直後に妻が姿を消した。でも、どうして?「考えてみると昔から幼稚園の先生が大好きだった」ちょっと気弱な男が、それがためにじわじわと恐ろしい結末へ追いつめられていく「粘土の女」など10編。旧知のはずの友人が、恋人が、妻が、突然他人となる日、阿刀田ワールドの扉が開き、見えない罠があなたの足もとに口をあけます。

■感想
「粘土の女」は、それなりにインパクトがある。親の資産を相続した男が、様々な女に言い寄られる。女はその時々に形を変え、自分の都合の良いように行動する。男の流される性格と、女の厚かましさばかり感じてしまう。

女が男の資産目当てに動き出すその行動が、男からするとかなり腹立たしい。女の言いなりになる男も同じだ。それが物語の根源なのだが、怒りを感じるということ自体が、それなりに物語に入り込んでしまったのだろう。

「からっぽ」は、ミステリーとしてよくあるパターンだ。女は男から絶対に開けるなと言われた抽斗をつい開けてしまう。その中にモノを入れるといつの間にか消えているのだが…。抽斗の中の物が消える。まるでドラえもんの四次元ポケットのような機能を持つ抽斗だ。

オチは誰もがある程度想像する流れとなる。抽斗の中の物が消えるからといって、特別何か有効に使えるわけではない。しいてあげるなら、本作の女が最後にやったことなのだが…。ミステリーとしての不思議さと、オチの不気味さが良い。

「地震学入門」は、意外な方向へとオチがつながっている。中世ヨーロッパの時代。ある女は地震が大嫌いだった。地震学者は地震の原理を説明し、大きな揺れが来た瞬間、あとは揺れが治まるだけと説明するのだが…。

地震と夜の営みが似ているという記述があることから、そのあたりがオチにくるのだろうと想像していたが…。まさかの方向だ。確かに、巨大な揺れがくると、あとは小さな揺れが来るだけなので心配はない。恐れるのはその巨大な揺れだから…。理論的な考え方をすると、本作のようなオチになるのだろう。

それぞれの短編にしっかりとした個性のある短編集だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp