食べられた男  


 2012.3.7   ブラックなショートショート 【食べられた男】

                      評価:3
■ヒトコト感想
バラエティに富んだショートショート42編。相変わらず作品のバリエーションには驚かされる。ひとつとして同じ設定がない。当然オチもバラエティに富んでいる。ショートショートということで、サラリと読めるかわりに、イマイチな作品はすぐに頭からすっぽりと抜け落ちてしまう。ただ、短い作品が数多く収録されているために、1つの物語を読み終えても、次の物語を読むワクワク感がある。次はいったいどんなオチが待っているのか。奇想天外で、良い意味で期待を裏切るオチを求めて読み、その期待に答えてくれるのがすばらしい。作品の中にはなんてことない平凡な作品もあるが、突然、ものすごく切れ味鋭い作品がある。そのバランスも絶妙だ。

■ストーリー

親友のS君が、とびきりの美女を射止めた。余りのねたましさに私は、これはよくないことの前兆ではないか、とすら考えた。そして1カ月、S君の言動に微妙な変化が起こりはじめた──。ブラック・ユーモアの名手が構築した恐怖と幻想のショートショート42編。

■感想
いくつか印象に残っている作品の中で「会社更生法」は衝撃的な作品だ。業績の悪い会社の再建のため、コンサルタントが幹部の前で話したこととは…。古い作品にもかかわらず、現在の不景気を連想させるような物語となっている。会社を再建するために、何が必要なのか。誰もが想像するリストラということよりも、さらに上をいく展開だ。ブラックではあるが、「そうくるか!」という斜め上の展開が面白い。本作がもし、ただ幹部たちをリストラするというオチであったら、まったく面白くない。同じ方向だが、さらに過激なオチはすばらしい。

「悪魔のような」は、本作の中では比較的長い作品だ。ショートショートとはいえないかもしれないが、印象深い。精神病院から逃げだしてきた妻の級友が助けを求めてきた。夫は不倫相手を愛し、妻をうとましく思う。そして、夫はその妻の級友の言葉をヒントに…。まさに悪魔のような所業だ。先が予想できず、物語としてどうやって締めるのかわからないまま読み進め、夫の最後の行動ですべてが想像できる。前半部分のたくみな伏線と、妻の級友が、正常にもかかわらず精神病院へ入れられると嘆く流れ。これまた強烈にブラックな作品だ。

「オフィスの幽霊」は、まさに最後の1行にすべてが凝縮されている。文庫の構成も良いのだろうが、ページをめくると最後の言葉が1行だけ登場してくる。社内で課長にイジメられ自殺した同僚の幽霊が自分の前に現れた。なぜ自分の前に現れたのか…。ブラックというよりも、思わず吹き出してしまうようなオチだ。幽霊というのは恨みを晴らすために登場するものと思っていた。それが、恨む相手の前には決して現れることはない。それはなぜか?それまでの深刻なトーンが、最後の言葉で一気にユーモアへと変わっていく。この緊張と緩和がすばらしい。

ショートショートは、読み始めのワクワク感とオチに驚かされたときの感覚がなんともいえない。




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