春季限定いちごタルト事件  


 2013.10.23     小市民は魅力的だ 【春季限定いちごタルト事件】

                      評価:3
■ヒトコト感想
小鳩くんと小山内さん、ふたりのコンビが日常の謎を解き明かす。ミステリーにありがちな密室や殺人はいっさいない。日々の生活で浮かび上がるちょっとした謎を解き明かす。このふたりの主人公が特殊だ。できるだけ目立たず、平穏な小市民として暮らしたいと考える。冴えた頭脳を持ちながらその能力をひけらかさない。ごく親しい人たちに対しても、本性を見せない。

なぜこのふたりがそんな考え方を持つようになったのか、理由は本作では語られない。ただ、昔からの知り合いは、小鳩のギラギラした時期を知り、小鳩は小山内の本性を知る。小市民という言葉は微妙かもしれないが、なんだかその生活ぶりを読むと、ちょっと憧れてしまう。

■ストーリー

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?

■感想
小鳩と小山内は小市民にあこがれる。年頃の男女なので、ふたりは恋愛関係にあるのかと思いきや、そうではない。よく一緒にいるのだが、それはお互いを小市民にさせるための補完関係にあるらしい。片方がピンチに陥れば小市民になるよう手助けする。

小市民というのが、目立たず地味に過ごすことらしい。すばらしい能力を持ちながら、あえてそれを隠して生活する。ただ、気になる謎は解かずにはいられない。解いた謎を人にひけらかすことはしたくない。なんだかよく考えると非常に複雑なキャラクターだ。

日常のちょっとした謎を解く二人。「羊の着ぐるみ」では、1年生の女子が盗まれたポシェットを探す物語だ。なぜポシェットは盗まれたのか。嫌がらせか?単純にほしかったのか?小鳩が推理を働かせ、小山内がそれを補完する。謎を理論的に考える流れがすばらしい。そして、オチも秀逸だ。

何か大げさな事件が起きたわけではない。日常に起こるちょっとした出来心。相手のことを憎くてそうしたわけではない。このちょっとした偶然を解き明かすふたりにしびれ、こののんびりとした雰囲気に酔いしれてしまう。

「おいしいココアの作り方」は、まさに日常の謎だ。というか、謎と思わなければスルーしてしまう出来事だ。小鳩と小山内は健吾に家に招かれココアをふるまわれた。が、台所にはココアを作った形跡がない。ココアがどのようにして作られたか、なんてことを日常の謎ととらえるのがすごい。

作中では健吾の姉が、健吾からの挑戦だと息巻いている。小鳩と小山内は小市民を目指すので、覚めた目で見ている。が、謎は気になるらしい。ガツガツと日常の謎を解く名探偵風であればわかりやすいが、小市民を目指すというのが、物語のアクセントとなっている。

小市民。字面だけ見ると悪い意味のようだが、魅力的だ。




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