2012.10.19 不思議なたべものエッセイ 【食卓はいつもミステリー】
評価:3
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■ヒトコト感想
食べ物エッセイ集。戦争を経験した作者の子ども時代は、食糧事情がよくなかったのだろう。食に関するこだわりはないが、食に関する面白エッセイがつめこまれている。食べてうまかったもの。思ったほどうまくなかったもの。臭いはきついが味はうまいもの。そのときのシチュエーションで覚えている食べもの。味覚は記憶できないので、夢の中でものを食べることができないなど、作者の小説の材料となるエピソードまでつめこまれている。そして、古い時代ゆえに、作中に登場する食べ物の値段の安さに驚くだろう。年末には必ずすきやきを食べるだとか、夜中にスーパーで刺身を買う若い男の素性を考察するなど、単純な食以外に、食に関わるちょっと脱線したエッセイも面白い。
■ストーリー
百八煩悩というけれど、わけても業の深いのが食欲です。あのとき食べ損ねたメニューへの執着。貧しくてひもじかった頃のあの味覚。まだ見ぬ食べ物への憧れ…。優雅さとあさましさをないまぜにして、イマジネーションはふくらむ一方。空想の食卓は、ただいま大にぎわい。―グルメブームに食傷気味のあなたも満足まちがいなし!エッセイの手だれが贈る45編のひとくち話。
■感想
食に関するこだわりはないが、へんな執着がある作者。食べ物エッセイとなると、エッセイに登場した食べ物を食べたくなるというのがよくあるが、本作はそのパターンではない。おいしそうな食べ物を、絶妙な比喩で読者に伝えるような、そんなエッセイではない。食べ物との出会いから、裏の部分を語り、どちらかといえば作者の短編小説に近い仕組みかもしれない。単純にうまいものを褒め称えるエッセイではなく。うまいものの裏に隠された真実を、適切に指摘するという感じかもしれない。
まだ見ぬ食べ物への憧れも描かれている。そして、憧れの食べ物を食べた結果も描かれている。結果は、憧れが強ければ強いほど、たいしたことないという感想で終わっている。結局のところ、一番おいしい食べ物というのは、味だけでなく、そのときのシチュエーションが大事らしい。作者の豊富な人生経験と、食べ物をあつかった小説などを例にだし、エッセイとしての面白さを表現している。印象的なのは、ドリアンを食べるエッセイだ。ドリアンの味の描写はなんとなく伝わってきた。作者の感想と同様に、エッセイを読んだからといってドリアンを食べたくはならない。
ブラックユーモアあふれる作者の小説のアイデアをばくろするエッセイもある。夢で、目の前においしそうなご馳走があったとしても、決して食べることはできない。その理由は、脳が味を覚えることができないかららしい。そのことを逆手にとり、夢の中で好きなものを食べることができる男の話を描いた小説がある。もし、人間が夢の中で好きなだけ好きなものを食べられたとしたら、現実で食べなくても済むという流れのようだが、そうだろうか。夢で味わったら、現実でも同じように味わいたいと、より強く思うような気がした。
食べたくはならないが、魅力的な食べ物エッセイ集だ。
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