2013.1.9 野草を食べたくなる 【植物図鑑】
評価:3
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■ヒトコト感想
作者の得意領域である甘い恋愛物語は、後半に怒涛のごとく襲いかかってくる。前半は、貧乏メシというか、金をかけずに野草でおいしい料理を作るといった感じの、食べ物エッセイ風だ。ひょんなことから同居することになった男が、野草で料理を作る。タイトルどおり、植物についての知識が増えることは間違いない。それも、食べられるかどうか、味はおいしいかどうか、なんてことが重点的に知識として頭に入ってくる。作中に登場する草花の写真があるのもよい。何気なく見過ごしていた草花には、当然だが名前が存在し、食べてみたらおいしいらしい。植物に興味がない人であっても、読めば多少は興味を持つだろう。作者のファンならば、いつもの痒くなるような恋愛が後半に待っているので、十分楽しめるのは間違いない。
■ストーリー
ある日、道ばたに落ちていた彼。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?咬みません。躾のできたよい子です」「―あらやだ。けっこういい男」楽しくて美味しい道草が、やがて二人の恋になる―。書き下ろし番外編に加え、イツキ特製“道草料理レシピ”も掲載。
■感想
行き倒れの男を同居させ、ハウスキーパーあつかいにする。その設定だけで、なんだか作者の得意分野のような気がした。掃除洗濯、野草を使ったヘルシー料理が得意な男。方やズボラでコンビニ弁当を常食としている女。男を召使のようにかしずかせるのではなく、適度な距離感を保ちつつ、良い関係を築いている。そして、いつの間にか二人の間に…。男が絵に描いたような草食系ではなく、料理はするが、男っぽい言動がチラホラ見え隠れする。この友達以上恋人未満のモヤモヤ感を描かせると、作者の右にでるものはいない。
作中に登場する料理の数々は、よだれがでるほどうまそうだ。ただ、実際に食べてみると、微妙な味なのだろう。考えてみれば、野草をてんぷらにしてタラの芽などはうまいと有名だが、その他の植物がそこまで有名でないのは、それだけの味だからだろう。料理系のエッセイは、読むとその料理を食べてみたくなる。未知なる野草であれば、なおさらだ。本作も、中盤までは野草料理エッセイというような感じかもしれない。写真付きの野草の解説あり、変に野草に対する知識がつくのも思わぬメリットかもしれない。
物語の後半では、甘い展開が待っている。同居人の突然の失踪で失ったものの大きさを知る。誰もが予想するような展開になるのは間違いないのだが、そのプロセスがなんとも心を熱くさせる。男がいなくなったあとも、ひとり寂しく野草狩りを続ける女。いじらしくなるほど、ひたすら昔の男の思い出にひたるのは、悪い傾向かと思いきや、しっかりと立ち直る女のたくましさに強烈な強さを感じた。野草狩りカップルなんていう新しいジャンルが流行りそうなほど、愉しげな物語だ。
ここまで野草押しされると、どこかの山の中で野草でも探してみようか、なんて気になってくる。
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